4. 大気を修復するために

気候変動においても人間の健康においても悪影響を及ぼすメタンですが、「メタンのはいしゅつを減らすことが気候変動かんのカギをにぎっている」とジャクソン教授は言います。その理由の一つは、メタンが大気中にとどまる時間(寿じゅみょう)が二酸化炭素に比べて短く、10年前後であることです。寿命が短いということは、排出を減らすことができれば、大気中のメタンはかく的早いペースで減っていくということです。その効果は、10~20年以内に世界の平均気温上昇を最大で0.5℃もおさえる可能性があります。「メタンのさくげんこそが地球温暖化を緩和するうえで最も有望な解決策の一つだ」と教授はこの取り組みに希望をたくしています。

そして教授が今、強い関心を持っているのが“大気修復”という考え方です。パリ協定では地球温暖化対策の目標を「産業革命前と比べて平均気温の上昇を1.5℃までに抑える」としていますが、これだけでは具体的にどうすればよいのかいっぱんの人には実感がわきにくいかもしれません。しかし「傷んだ絵画を元に戻すために修復する」という感覚なら、多くの人にとって理解しやすいのではないでしょうか。だからこそ、ジャクソン教授は、空気に対しても、ほかのものと同じように、「修復する」という考え方で向き合うことが大切だと考えています。

教授は、大気を修復するために最初に取り組むべきものはメタンだと言います。先ほども述べたように、比較的短い期間で効果が現れやすいからです。そのための手段は三つあります。①排出源で減らす、②大気中に放出される前に分解する、③大気中にあるメタンをかいする、です。教授の研究室では、大気中のメタンをつかまえて別のガスへへんかんする技術の開発や、家庭などでのメタン漏れの調査、人工衛星を利用した世界中の大きなメタン排出源を見つける取り組みなどを進めています。

ただし、大気中のメタンの量は二酸化炭素と比べるとずっと少ないので、二酸化炭素の削減が重要であることは変わりません。

もうひとつ、教授が担っている重要な役割があります。それは、2001年に複数の国際機関の協力のもと国連のえんを受けて設立された「グローバルカーボンプロジェクト(GCP)」の議長を務めることです。

GCPでは、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが、海洋や森林、湿地などの自然かんきょうからどれだけ発生しているのか、また人間の活動からどれだけ出ているのかを、世界中の研究者が協力してまとめています。こうして地球全体のじょうきょうあくしながら、発生源の正確な特定と、排出の削減に取り組んでいます。GCPで得られた知見は、これまで多くの国やぎょう、機関などが温室効果ガス排出量削減を進める大切な土台になってきました。

ジャクソン教授の探求は、さらに広がっています。ここ10年ほどは、ガス・石油さいくつ現場や都市など人工的な環境での研究に力を入れてきましたが、これからは再び自然環境の研究も進めていく考えです。アマゾン川流域でのメタン濃度の測定に加え、南米の他地域やアフリカでの測定を進めようとしています。また、ヨーロッパや北米の原生林における生物多様性や土の多様性の調査にも取り組んでいく予定です。自然環境と人工的な環境、その両方を並行して考えることが、教授の探求心をさらにかき立てています。

最後に、若者へのメッセージを教授はこう語ります。

「今、若者たちは様々な問題にあふれる世界をわたし、自分たちの未来を心配しているかもしれません。しかし人類の努力によって、これまでに良くなってきたこともたくさんあります。例えば、世界の乳児死亡率は下がってきました。多くの豊かな国では大気や水の質が改善され、まだ不正や不平等はあるものの、世界の貧困も昔と比べれば減ってきています。また、オゾン層保護を目的としたモントリオール議定書は、世界の何億もの人々をがんや白内障から守ることにつながりました。米国では、大気じょう法が制定されたことにより大気汚染は減り、毎年何十万もの人の命が救われています。このように、多くのことが昔より良くなってきているのです。みなさんは、こういったことを成しげてきた人類の力を信じ、希望をもって日々を生きてほしいと思います。」

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ロバート・B・ジャクソン教授

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