2. 土の中で起きていること

ジャクソン教授が大学院で生態学を学んだとき、研究の出発点になったのは、植物の「根」でした。根がどのように水分や栄養を取りみ、土の状態と結びついているのかといった視点は、やがて教授が長年取り組むことになる地球規模のテーマへつながっていきます。

教授が注目したのは植物と土の間の“炭素”のやり取りでした。炭素は動物や植物の体をつくる重要な成分で土の中では植物の根はもちろん、死んだ生き物の体やそれを分解する微生物の体として存在しています。これらの生き物の体を作る炭素をふくむ固体を有機物と言います。炭素は空気の中では、生き物の呼吸として放出される二酸化炭素や、酸素が少ない環境でも元気なさいきんが作り出すメタンとして存在しています。このように炭素は動植物の体や土の中など場所を移しながら、地球全体をめぐっています。この炭素が地球上で巡る動きのことを“炭素じゅんかん”と呼びます。

炭素循環は、気候変動にも深く関係しています。空気中の二酸化炭素が増えるか減るかは、炭素が「空気中にとどまる」のか、それとも「植物や土に吸収されて、地中や海底深くにとどまる」のか、のバランスに大きく左右されるからです。

二酸化炭素は代表的な温室効果ガスの一つで、空気中に増えすぎると地球を暖め、気候変動の原因になります。一方で、植物にとって二酸化炭素は、食べ物のようなものです。植物は光合成によって二酸化炭素を取り込み、糖や様々な有機物をつくって成長します。

そのため以前は、「空気中の二酸化炭素が増えれば植物がよく育ち、土に貯蔵される炭素も増える」と考えられてきました。さらに言えば、人間の活動によって空気中の二酸化炭素は増えるけれども、植物が吸収し貯蔵してくれる分も増えるだろうと思われていたのです。

ところが、ジャクソン教授たちの研究によって、実際はそれほど単純な仕組みではないことが分かってきました。研究の結果、空気中の二酸化炭素が増えると、確かに植物の成長は速まり二酸化炭素を吸収する量は増えます。けれども、長期にわたって森林の樹木が吸う二酸化炭素の量を増やす実験を行うと、土の中の炭素の貯蔵量は単純な計算で期待されるほど増えない、あるいは減ることもある、ということがわかってきました。

なぜ、そんなことが起きるのでしょう。

空気中の二酸化炭素が増えて植物の成長がそくしんされると、植物はそれに見合うだけ多くの養分や水分を必要とします。そのため、植物は「もっとたくさんの養分が欲しい」と、根から微生物のエサになる物質を出します。すると微生物の働きが活発になり、根の周りで落ち葉などの有機物を分解して、植物が利用できるちっやリンなどを作り出します。その過程で、有機物にふくまれる炭素の一部は、二酸化炭素として大気にもどっていきます。これが、土にたまる炭素(炭素貯蔵量)が減ってしまう理由です。

空気中の二酸化炭素(CO2)が増えるとどうなる?

また、土の中の有機物の量と質は、土が水分や栄養をたくわえる力にも関わっています。炭素が減って土の力が弱まると、長期的には植物の成長そのものもにぶっていきます。

植物の成長と土の質の関係はそれまでにも研究されていましたが、ジャクソン教授たちは、これまでにはない規模で、しかも多くの国での調査に基づいた結果を発表しました。これはとても大きな功績です。

3. 見えないメタンを追う

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ロバート・B・ジャクソン教授

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