4. 自然と人間はつながっている

自然の多様な価値と価値評価の方法論に関する評価報告書

IPBESは2022年に『自然の多様な価値と価値評価の方法論に関する評価報告書』を発表しました。この報告書は、自然に関する多くの意思決定が物質主義的な観点に強く影響されており、その結果、人々が自然に対してく感情的な側面や実体験がしばしば見落とされていることをてきしています。そして自然との関わり方を新たに4つの視点に分類し、提示しました。

  • 1)自然により生きる(Living from Nature)
  • 2)自然と共に生きる(Living with Nature)
  • 3)自然の中で生きる(Living in Nature)
  • 4)自然として生きる(Living as Nature)

1つ目の「自然により生きる」は、自然を人間が必要とするものを供給する源とみなすものです。2つ目の「自然と共に生きる」は、人間以外の生物が独自にはんえいする固有の権利にしょうてんを当てています。3つ目の「自然の中で生きる」は、自然とのつながりが人の居場所やアイデンティティを提供することの重要性を強調しています。最後に、「自然として生きる」は、自然を自分自身の身体的、精神的、そしてれいてきな一部分であると見なすものです。世界の多くの人々がこのような自然とのつながりを感じながら暮らしています。

ラリゴーデリー博士は、今の世の中は「自然により生きる」にかたより過ぎていると指摘します。

「かつて日本を訪れたとき、大木のまわりに太いなわを巻き、木そのものの存在に特別な価値を認めていることにかんめいを受けました。その木は国の天然記念物でしたが、これこそ人が自然の中に市場価値とは異なる価値を見出している象徴的な事例であり、自然による非物質的な関わりを認める『自然として生きる』そのものだと感じました。こうした価値観をもっと大切にしていくべきだと思っています。」

世界の著名人やインフルエンサーがこの報告書に反応し、SNSやメディアを通じて生物多様性の重要性を訴えるようになりました。

これからの活動

IPBESは、現在も複数の新しい報告書発表に向けて準備を進めています。設立から10年が経過した今、IPBESは科学と政策をつなぐプラットフォームとして確固たる地位を築き、政策立案に必要な豊富なエビデンスとせんたくを提供し続けています。

生物多様性に関する指針を求めるぎょうからの関心も高まっており、IPBESは企業が生物多様性をより良く保護・回復・活用するための調査・研究を積極的に進めています。2025年には、ビジネスと生物多様性のそう関係に関する評価報告書が発表される予定です。

そして、IPBESは2019年の地球規模評価報告書のアップデートに向けた取り組みも開始しています。この、生物多様性と生態系サービスに関する第二次地球規模評価は2028〜2029年に発表予定で、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」のしんちょく評価も反映される予定です。また、第二次地球規模評価は生物多様性条約の2030年以降の目標設定にも有用な情報を提供することが期待されています。

IPBESについて

ラリゴーデリー博士からのメッセージ

「人々が、生物多様性の未来は自分たちの手にかかっていることを理解すれば、日々のせんたくを通じて生物多様性を支える行動を取ることができるようになります。たとえば、消費者として、より健康的で持続可能な食生活を選ぶことができます。また、子どもたちへの教育を通じて、自然との強い結びつきを育むことも可能です。有権者や市民としては、選挙での投票という形で意思を示すこともできます。基本的に、人々は自らのあらゆる行動を自然との結びつきという視点からとらえるべきです。そして、もしそうすれば、私たち全員に明るい未来が訪れると信じています。最終的に、私たちは自分たちがふさわしいと感じる自然を手にすることになります。その状態は私たち一人ひとりが自然のためにどれだけ努力し、投資するかに比例するでしょう。」

IPBES事務局長 アン・ラリゴーデリー博士

IPBES事務局長
アン・ラリゴーデリー博士

コンテンツ監修
橋本禅(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
※所属は公開当時のもの

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生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)

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