3. 豊かな国と貧しい国の異なる道筋

公正なほうかつ的グリーン成長(BIGG)

地球サミットで提示されたサステノミクスは、当初、大きな興奮をもたらしましたが、その後、こうよう感は次第にうすれてしまいました。ムナシンゲさんと仲間の研究者たちは、持続可能な開発の3つの側面を調和させるのは口で言うほどたやすくはないことを思い知らされます。問題を解決するためにはえいきょう力を持つ世界の指導者や政策を決めるえらい人たちにサステノミクスの考え方を受け入れてもらう必要がありますが、かれらに耳をかたむけてもらうためには、よりじっせん的な方法を見つける必要がありました。
そこで、サステノミクスの考え方を基にムナシンゲさんが次に発表したのが「公正な包括的グリーン成長(BIGG)」という考え方です。これは、各国それぞれの開発段階に合わせて、それぞれ異なる持続可能な開発のための具体的な道筋を示したもので、SDGsを進めるうえでも非常に役立つ考え方です。

ムナシンゲさんは、下の図に示されるように、かんきょうリスク(国民1人当たりの温室効果ガス排出量)と開発レベル(国民1人当たりの国民総生産)の関係を調べることから始めました。右に行くほど経済は成長していきますが、上に行くほど環境に負荷をかけてしまいます。
先進国はCの地点にいます。経済成長してきた結果、すでに安全限界をえて環境に負荷をかけていることがわかります。富裕国は質の高い生活水準を維持しつつ環境資源の使用を減らすことで経済と環境のバランスを取り戻し、持続可能な点Eに到達できると、ムナシンゲさんは論じました。

環境リスクと開発レベル

図:環境リスクと開発レベル

いっぽう、中間点Bに位置付けられる開発じょう国は過去の教訓を学ぶべきです。これらの国々は、イノベーションを推し進めることで、富裕国が通ってきた持続不可能な道筋を回避し、安全な限界を超えることなく、グリーン成長のトンネルをくぐりけて点Eに辿たどり着けると考えられます。これが経済と環境を調和させる方法です。

環境リスクと開発レベル

図:環境リスクと開発レベル

BIGGでは、まず経済と環境の2つの観点から目標を達成し、次のステップで社会的な目標を達成することを目指します。経済と環境の二つの目標から始めるのは、多くの人が経済成長と環境保護は両立できないと誤解していたことも理由の一つです。サステノミクスを発表した1992年当時、ムナシンゲさんは世界銀行のどうりょうに、なぜ経済と同様に環境や社会を重視するのかと問われました。当時、世界銀行は経済成長の後しはするものの、環境にはあまり重点を置いていなかったのです。ムナシンゲさんは経済だけでは限界があり、分野を超えた取り組みが必要であると返答しましたが、まずは経済と環境が、どうすれば両立可能であるかを示すことが重要だったのです。

BIGGが実践的なのは、それぞれの国の文化や社会じょうきょうに応じて、持続可能な開発に異なる道筋を示しているところです。一口に持続可能な開発といっても、豊かな国と貧しい国の事情はちがうことをこうりょする必要があります。ムナシンゲさんはこう言っています。「貧しい国でえ、子どもが死にそうになっている人たちに『ほら、そんなに二酸化炭素をはいしゅつしてはいけないよ。20年後には私達は、温室効果ガスで地球をかいしてしまうんだ』と言ったところで、彼らに『自分たちは今日を何とか生きこうとしているんだ』と言われてしまいます。だから国によって取り組みを変えるのです。」

開発途上国は、環境にかけている負荷も少ないのですが、先進国は、豊かさのだいしょうとしてこれまで環境に大きな負荷をかけ、地球温暖化の原因となる二酸化炭素をたくさん排出してきました。ですから、まずは先進国が環境負荷を減らす必要があります。とはいっても、先進国の人々もこれまでの豊かな生活を失うのはいやですよね。しかし、先進国は今、十分な技術を持っています。その技術を使えば、繁栄をしつつ、エネルギーや水などの資源を使いすぎないようにし、温室効果ガスを減らすことが可能です。
いっぽう、開発途上国にとってはこれから繁栄し、もっと豊かになりたいと望むのは当然のことです。そして、新しい技術がある今は、先進国が通ってきた持続不可能な道筋を回避し、安全な限界を超えることなく、グリーン成長のトンネルを進むことができます。

こうして経済と環境の2つの目標を達成したところで、3つ目の社会的な目標の達成を目指します。貧困層におんけいをもたらし、包括的で不平等を是正する政策を加えることでグリーン成長をさらに推し進めます。
以上がBIGGの開発の道筋です。この道筋をたどれば、貧困、、エネルギー、水、健康、教育、ジェンダーなど、持続可能な開発に関するさまざまな問題をみな解決できようになるのです。

4. ゆう層(先進国の人々)は責任ある消費を

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モハン・ムナシンゲ教授

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