4. 食習慣・健康・かんきょうの問題を一気に解決

食習慣・健康・環境のトリレンマ

環境に大きくえいきょうあたえる農業。その農業のあり方に大きく影響するのはなんでしょうか。
ティルマンさんは、それは私たちの食習慣であるという答えを導き出しました。私たち人間が食べるものが変われば、作られる作物やちくの種類も変わるのです。食べ物には、環境によいものと悪いものがあります。人間が環境によい食べ物をより多く食べるようになれば、農業の環境への悪影響は小さくなります。

もうひとつ、食習慣は健康にも大きな影響をおよぼします。健康も、人間にとっては非常に大事なことです。
食習慣は農業を通して環境に影響を与え、同時に健康にも影響を与えます。つまり、食習慣・健康・環境は、おたがいに関係しているのです。この3者がからみ合った問題のことを、ティルマンさんはトリレンマと呼びました。そして、食習慣を変えることができれば、この複雑な問題の解決につながると考えたのです。

健康にもかんきょうにもよい食習慣

どうすれば食習慣を変えられるのでしょうか。人々が食習慣を変えるためには、そうしたいと思うだけの動機が必要です。つまりその食習慣は、多くの人に好まれ、かつ、健康にも環境にもよいものでなければいけません。
ティルマンさんは他分野の科学者と協力してぼうだいなデータを調べ上げ、健康にも環境にもよい食習慣をしょうかいしています。そのひとつが地中海式食事法です。これは、地中海沿岸地域の食生活を元にしており、精白していない麦などのぜんりゅう穀物、野菜、豆類、木の実、オリーブオイルなどの健康的な油、果物、魚をたくさん食べ、赤肉(牛、ぶた、羊、馬、ヤギなどのにゅう動物の肉)をあまり食べない食習慣です。

その他にティルマンさんがあげる、健康にも環境にもよく、しかも好まれる食習慣として、日本の伝統的な食事やインドの伝統的なベジタリアン食などがあります。日本の伝統的な食事では野菜と魚を主に食べますし、インドの伝統的なベジタリアン食では肉を食べません。

ティルマンさんたちは15種の食べ物について、それが環境によいのか悪いのか、また、健康によいのか悪いのかの観点からぶんせきしました。その結果、赤肉や、加工された赤肉(ベーコン、ハムなど)は環境にも健康にも悪く、穀類、豆類、野菜、木の実、果物などは健康にも環境にもよいことがわかりました。なんと、私たちの健康に良い食べ物は、実は環境にもよかったのです。

食物群の死亡率への影響と環境への影響を表したグラフ

食物群の死亡率へのえいきょうと環境への影響の関係を表したグラフ。上にいくほど環境に悪く、右に行くほど健康に悪い

赤肉はなぜ環境によくないのでしょう。例えば牛は、非常にたくさんの穀物をえさとして食べますし、ゲップなどにより強力な温室効果ガスであるメタンを発生させるため、牛肉の生産は環境への負荷がとても大きいのです。
ティルマンさんは、赤肉を食べてはいけないとは思っていません。赤肉は、特に子どもたちが成長するために大切な栄養をふくんでいます。しかし、豊かな国の人たちは、本当に必要な量の3倍もの赤肉を食べており、それは健康にもよくありません。私たち人間が赤肉を食べる量を減らせば、環境にも健康にも大きなおんけいをもたらすことになることが、ティルマンさんたちの分析でわかっています。
今、食習慣・健康・環境に関するティルマンさんたちの研究は、国の政策や医学の分野などで活かされつつあります。

未来に関わる大きな課題

ティルマンさんは、私たち人間は地球を支配する種として、自分たちの行動がいかに地球の未来に深く関わっているかをもっと意識すべきであり、そして食料とエネルギーという2つの大きな問題についてもっときちんと向き合うべきだと言っています。

母親と子供たちと

母親と子供たちと

どちらも非常に大きな問題ですが、ティルマンさんは、じゅうじつした生活を送りながらでも問題の解決は可能だということを、若いみなさんに知ってほしいと願っています。食生活の改善は、かんたんで、しかも楽しみながら実現できます。まずはおいしくて健康にもかんきょうにもよさそうな食材を探してみて、日々の食事を一品、変えてみることから始めればよいのです。

妻のキャシーさんとサンタバーバラにて

妻のキャシーさんとサンタバーバラにて

さらに、友達をそのような食事にさそったり、いっしょにそのような食事を作ってみたりしてもよいでしょう。また、車になるべく乗らずに電車に乗る、といったことも、エネルギーの問題を解決する第一歩です。

初孫と

初孫と

私たち一人ひとりが小さな一歩を積み重ねることで、生活をよくすることも、地球を持続可能にすることもできると、ティルマンさんは信じています。

受賞者インタビュー

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デイビッド・ティルマン教授

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