1. 生態学における予測へのちょうせん

リトル・プロフェッサー

ティルマンさんは1949年、アメリカ合衆国で生まれました。家はミシガン湖 のほとりにあり、自然いっぱいのかんきょうで楽しい子ども時代を過ごしました。

1歳のころ

1さいのころ

家族を大切にした両親

家族を大切にした両親

野球が好きでリトルリーグに入っていましたが、試合中でも、ライトの守備にきるとつい、自然を観察してしまうような子どもでした。そんなティルマンさんにコーチが付けたあだ名は「リトル・プロフェッサー(小さな教授)」。しかしそのころは、将来、自分が本当に教授と呼ばれるようになるとは夢にも思いませんでした。

ミシガン湖にて(左がティルマンさん)

ミシガン湖にて(左がティルマンさん)

生態学との出会い

高校生になったティルマンさんは、数学、理科、ラテン語が大好きで、実験に重点をおく理科の授業で学ぶうちに、科学分野の発見がいかにして成されるのかを学びました。このころには、将来は科学者になりたいと思うようになっていました。

高校生になったティルマンさん

1967年、ティルマンさんはミシガン大学に入りました。最初は、物理学か数学をせんこうするつもりだったのです。ところが、2年生の後半に受講した生物学の最後に、数週間だけ生態学 入門の講義があり、そこでティルマンさんは生態学のとりこになってしまいました。生命の進化や生態系からかんきょうせんに至るまで、地球上の生命に関する大きな疑問を投げかける学問だと思ったからです。
生態学の講義では、生態学の科学的問題を理解するのに数学を用いていました。数学が得意だったティルマンさんは、生態学という学問は、自分の能力を活かして新しい何かを発見できる絶好の分野だと思いました。

また、ティルマンさんは、ミシガン湖の汚染が進んでいく様子を子どものころからながめて育っていました。原因は湖の富栄養化でしたが、当時は、それがなぜどのようにして起こるのか科学的によくわかっていませんでした。ティルマンさんは、生態学の知識をただ身につけるのではなく、生態学の研究を通して環境問題を解決したいと思ったのです。

予測する学問

新しいことをしたり、新しい何かを発見したりするためには、「予測」ということが必要です。ティルマンさんは、かんきょう問題を解決するためには、湖のせんが湖の将来にどのようなえいきょうおよぼすのかなど、今の環境問題が将来どうなるかを生態学によって予測することが大切だと思いました。

ティルマンさんは博士課程で、ミシガン湖の栄養素汚染に関係する、2種類のそうるいの研究をすることにしました。それは、2種類の藻類が生存とはんしょくのためにいかに競い合うかについて予測し、予測が正しいかどうかを実験で確かめる、というものでした。それまで生態学者が行っていたのは、すでに観察された競争の結果を述べていただけで、どの種が勝ち残るのか、負けるのか、それとも共存するのかを予測する方法を提案した生態学者はいませんでした。ティルマンさんは、その予測をやってみようと思ったのです。

ティルマンさんはまず、「A」と「藻B」の生存と繁殖に「ケイ酸塩」と「リン酸塩」のどちらの栄養素がより多く必要かを実験し、次のことをき止めました。

「藻A」と「藻B」の生存と繁殖

ティルマンさんはさらに、ミシガン湖のどのような場所でどちらの藻が生存競争に勝つのかについて、次のような予測を立てました。

  • ①:湖の中央部(ケイ酸塩が多い)→藻Aが藻Bより繁殖
  • ②:湖岸付近や河川の影響を受ける場所(リン酸塩が多い)→藻Bが藻Aより繁殖
  • ③:①と②の間(ケイ酸塩とリン酸塩が同程度の量)→藻Aと藻Bが共存する

そして、実際にミシガン湖と実験室で藻Aと藻Bの競争実験を行ったところ、ティルマンさんの予測の通りになったのです。それまで生態学の理論の多くはすでに観察された現象を説明するものでした。そのような中で、生態学が現象を予測する学問になりうることを初めて実証したこの研究は、大きなはんきょうを呼びました。

藻の実験のイメージ

研究も、生活も

1976年、博士号を取得し、ミシガン大学を卒業したティルマンさんは、ミネソタ大学の助教授として働きはじめました。以後、ティルマンさんは研究の道を一筋に歩み続けてきました。
大学時代に知り合ったおくさんのキャシーさんとは、大学院に進む前にけっこんしました。ティルマンさんは他の多くの研究者のように朝から夜おそくまで研究するということはせず、家族や友人との時間も大事にしてきました。木工作業、セーリング、カヌー、森林散策、自転車、写真さつえいなど、しゅもたくさんあります。今に至るまで、研究と生活をバランスよく両立させることがティルマンさんの信条です。

2. 豊かな自然は多くを生み出す

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デイビッド・ティルマン教授

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