2. 豊かな自然は多くを生み出す

生物多様性は重要ではない?

生物多様性は、今ではとても大切にされているがいねんですが、70年代の生態学では、あまり重要視されていませんでした。人間にとって重要なことのひとつに、生産性があります。土地の生産性とは、ある土地の単位面積当たりの生産物の量のことですが、生態系が多様であるからといって、生産性が高いわけではないと考えられていたのです。

生物多様性の実験

しかし、ティルマンさんは、生物多様性が土地の生産性の向上において本当は重要なのではないのかと考え、実際の農場での実験で解明することにしました。世界で初めての、生物多様性が生産性にあたえるえいきょうを調べる大規模な実験です。

ティルマン教授の実験農場

ティルマン教授の実験農場

  • ①農場をたくさんの小さな区画(9m × 9m)に区切ります。
  • ②それぞれの区画には1種類、2種類、4種類、8種類、16種類、というように、ランダムに植物を植えます。そしてそれぞれの区画での成長を20年にわたり観察しました。

この実験によって、生物多様性は、土地に生産性や安定性をもたらし、じょうよくにすることに対し、極めて重要な役割を果たしていることがわかってきました。16種類の植物が植えられた区画では、ひとつの区画でそれぞれの種を1種類だけ育てる場合に比べ、200%も生産性が増したのです。当時の生態学の常識をくつがえす発見でした。
その後、ティルマンさんの実験結果が正しいかどうか確かめるために、多くの科学者たちがさまざまな生態系を対象として同様の実験を行いました。今では、生物多様性が失われると、ほぼすべての生態系の機能が損なわれることがわかっています。
生物多様性が重要なのは、生物の種ごとに特性がちがうからです。種によって他よりも優れている部分とおとっている部分があります。それぞれの種が優れている部分を進化させ、それぞれの働きをすることで種は共存し、豊かな生態系が成り立っています。

人間の社会でも同じです。世の中に多くの職業があり、それぞれが必要な仕事を他よりもうまくこなすことで人間は共存し、社会は成り立っています。
ただ、生物としての人間は、特別な種になってしまいました。人間は長い歴史の中で知識と技術を身に着け、世代をえて受けぎ、作物やちくなどを育てて食べるようになりました。本来、生物は共存しなければ生きていけないのですが、人間は、他の生物を自分たちのために働かせることで、共存しなくても生きていけるようになりました。そして人間は、他の種をぜつめつさせる動物となり、生態系をかいし、さまざまなかんきょう問題を発生させているのです。今後、私たち人間はどう行動するべきなのでしょうか。

3. 環境にも人間にもよい農業とは

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デイビッド・ティルマン教授

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