3. かんきょうにも人間にもよい農業とは

農業は環境によくない!?

人間は農業によって自分たちが食べるものを育てています。ティルマンさんは、何が地球環境をかいしているかを研究した結果、実は農業が、最も環境問題に重大なえいきょうあたえている人間活動だという考えにたどり着きました。

ティルマンさん

一見、農業より工業のほうが環境問題を引き起こしていそうだと思うかもしれませんが、工業は、ここ40~50年くらいの間に多くの国でせん物質のはいしゅつに関する規制などが行われ、じょうきょうは改善しています。しかし、世界的に見ると農業については工業ほど規制が行われていません。肥料やさっちゅうざいは多くの国で使われすぎています。地球上の実に40%の土地が農業に使われており、生態系を破壊して新たな農地が作られ続けています。そして、気候変動の原因となる温室効果ガスのおよそ30%は、農業によるものなのです。

必要な食料は増えるいっぽう

今でもかんきょうへのえいきょうが大きい農業ですが、今後はさらに大きくなる可能性があります。地球の人口はどんどん増えており、必要な食料も増えるいっぽうだからです。
ティルマンさんたちは、将来、必要な作物量がどれだけ増えるかを調べるために、GDPの増加予測と、GDPが各国の食生活にあたえる影響を調査したのですが、結果は厳しいものでした。国連は、2010年から2050年の間に人口は約30%増えると予測していますが、人口が約30%増えるとそれに対して作物量は約2倍以上増やさなければいけないことがわかったのです。

なぜ作物量を余計に増やさなければならないかというと、必要なのは私たちの口に入る作物だけではないからです。例えば、豊かな国の人が1日に2000キロカロリーの食べ物を食べるには、8000キロ カロリーの作物を作る必要があります。それは食料となるちくえさが必要だからです。はいされる作物もあります。

人口増加と必要な作物量の関係のイメージ

持続可能な農業

このように、農業はかんきょうへのえいきょうが大きいのですが、人間が生きていくためには農業が必要不可欠です。環境にやさしく、人間も食べていける、すなわち持続可能な農業の方法はないものでしょうか。

ティルマンさん

例えば、作物が本当に必要としているタイミングで必要な量の肥料だけをあたえれば、しゅうかく量が増えるとともに、余分な肥料が地下水をよごしたり温室効果ガスをはいしゅつする原因となったりしなくなります。また、2種類の別々のコメの品種を交互の列に植えてさいばいすることで、農家はコメの深刻な病気を防ぎ、高価で有毒な殺菌剤を使わなくて済むことが分かりました。単作から、2種類の作物を交互に植えて栽培する間作に移行することで、収量は 20~30%増加し、しかも肥料の使用は少なくなります。(種の多様性が生態系の生産性と安定性を決める大きな要因であることを思い出してください)。「農業の持続可能な集約化」、すなわち、今ある農地をこれ以上広げずに、作物量を増やすことは可能だというのがティルマンさんの考えです。

社会を変えるアイディア

ティルマンさんたちがおこなった農業がかんきょうあたえるえいきょう、特に農業がもたらす温室効果ガスについての研究は国際的な組織であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル) にも注目され、2019年に発行されたIPCC「土地関係特別報告書」 の中で数多く引用されました。それは、実際にティルマンさんたちの研究結果が環境問題の解決に役立てられるということで、大変意義のあることでした。

しかしティルマンさんは、研究成果がまだ十分に社会にしんとうしていないと感じています。新しい知識が社会に受け入れられ、私たちの生活が変わるまでには長い時間がかかるものですが、ティルマンさんは社会の変化のスピードをなんとか上げたいと思っています。
よいアイディアはないものでしょうか。例えば、インターネットやスマートフォンはあっという間に広まりました。多くの人々がほしい、やってみたいと思うことであれば、すぐに社会に受け入れられることもあるのです。同じようなことはできないでしょうか。

4. 食習慣・健康・環境の問題を一気に解決

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デイビッド・ティルマン教授

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