かんしゅうのことば

-2020年(第29回)ブループラネット賞受賞者にせて-

生物多様性のそうしつ対応が最も危機的
~地球レベルのかんきょう問題の優先順位~

最初は環境問題の教科書のような記述になりますが、いっぱん論から入りたいと思います。現時点で発生している地球レベルでの様々な現象があります。研究者によって、何が最重要な問題かという認識は若干異なりますが、一般的に、次の問題が重要であると判断されていると思います。

(1)気候変動、(2)熱帯林の減少、(3)生物多様性の減少、(4)海洋せん、(5)酸性雨、(6)有害はいぶつじょう国への移動。

以前は、25種の環境問題があるといったてきもあり、解決が可能であるにも関わらず、当時は放置されていたというジャンルの問題が多かったのですが、現状では、それらの問題の多くは、解決されたか、解決の方向性にあります。例えば、オゾン層かいは、使用するフロン類を大気中の寿命がより短い物質にへんこうすることによって、改善されたと言えます。また、(5)酸性雨と(6)有害廃棄物の途上国への移動も、先進国による経済的なえんがあれば、燃料中のイオウ分などを除去することや、世界レベルで廃棄物の自己処理の方向なので、解決可能だと考えられます。

それなら、より長期的に見て、どの問題が解決困難な問題だと言えるのか。その候補の一つは、(1)「気候変動」ですが、これに対応するには、CO2の地球レベルのさくげんが不可欠でありますが、このところ、きんゆう関係のスタンスが大きく変わったため、少なくとも先進国においては、CO2問題も解決の方向に動き出したように見えます。おそらく、2050年には、解決策がほぼじっされているように思います。(5)酸性雨問題も同様だと思われます。

となると、今後長期にわたって問題になりそうな課題は、以下のようになるように思います。(2)熱帯林の減少、(3)生物多様性の減少、(4)海洋汚染、以上の3分野です。中でも、(3)生物多様性の減少は、(2)と(4)の問題が解決しなければ、解決を見ないという課題ですので、最後の最後まで残るもっとも解決が困難な地球環境問題になると思えます。


生物多様性の減少はどのようにして起きるのでしょうか。そのメカニズムは実は多種多様だと思われます。例えば、美しい熱帯性の鳥類は、かくされ、商品化のために”はく製”にされる可能性があります。しかし、このようなことが起きないよう作られたわくみが、1975年に発効した「ワシントン条約(CITES)」と呼ばれれる国際条約です。正式なめいしょうは、「ぜつめつのおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」と大変に長いです。

どのような意識を持ったら、生物多様性の減少を防ぐことができるのでしょうか。それは、人間活動をほうかつ的に見直して、環境にあたえるえいきょうを精査し、その知識をすべての人々が共有することであると思います。


今回のブループラネット賞の受賞者は、いずれも、生物多様性の重要性をうったえた学者です。

米国のティルマン教授は、農業と食習慣がヒトの健康と地球環境に与える負の影響を明らかにし、特に、赤身の肉類は、人間の健康にも環境にも悪影響があることを示しました。すべての人類は、今後、じょじょにですが、菜食主義者に変わっていく方向性にあるのかもしれません。

英国のスチュアート博士は、IUCN(国際自然保護連合)が示す絶滅種リスト(レッドリストと呼びます)のための定量的な基準の開発を行い、評価対象種の拡大にこうけんされました。人類は、地球上の生物ピラミッドの頂点に存在する生命ではありますが、実は、他の生命種に全面的にぞんして生存しているという存在であることは厳然たる事実でして、常にこのような本質を、深くかつ広く認識すべきだと思われます。


さて、まとめですが、様々な問題からなる地球環境問題の重大性は、どのように評価すべきなのでしょうか。余り議論されない課題ではありますが、個人的には、”不可逆性”を優先的に評価すべき、だと思います。すなわち、”一度発生したら、元にはもどせない事象”とは何かを明らかにし、それらを優先的にはいりょし、対応方法を検討すべきのように思います。気候変動、より具体的には、地球温暖化は解決に時間がかかるため、早期対応が不可欠です。そして、生命種の絶滅は不可逆性の問題の最たるものですので、一度、絶滅したら、前に戻すことは不可能であるという意識を持つことが重要です。生命種の特性を十二分にこうりょしつつ、具体的目標として絶滅ゼロを目指した人間活動を常時実行することが、今後、もっとも重要な人類の課題であるように思われます。


やす いたる Itaru Yasui
国際連合大学元副学長
東京大学めい教授


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