4. これからの野生生物保全

IUCNレッドリストの発展

スチュアートさんたちが生まれ変わらせたIUCNレッドリストですが、今日のように発展させるまでにはまださまざまなかべがありました。基準をより確かなものにするためにはさらに研究を積み重ねる必要がありましたし、これまでもお話ししてきたように、自然保護には科学的な問題だけでなく、人間のおもわくからみます。基準が設けられてもなお、政府や産業団体が経済的に価値のある生物の登録を望まないといった問題もありました。
例えば、1996年、初めて新しいカテゴリーと基準に基づいたレッドリストを発刊したとき、クロマグロやニシマダラといった魚をぜつめつ種としてリストにせたのですが、何か国かの政府の漁業関連機関が強い不快感を示しました。漁業取引において非常に重要な魚だったからです。スチュアートさんたちは、それでも政治的圧力にはくっしませんでした。政治的な問題と、水産科学者が示す科学的な問題は分けて考えたのです。

こうして、さまざまな全ての問題に向き合ってきた結果、IUCNレッドリストのしんらい性は確かなものとなりました。今日では、保全のための資金集め、政府のかいにゅうによる絶滅危惧種の生息地の開発中止、あるいは生息地をおびやかさないための道路建設計画に対するデータ提供、さらには銀行の投資判断など、レッドリストはスチュアートさんたちの当初の想像をはるかにえてはば広く活用されるようになっています。

2016年IUCN世界会議(ハワイ)

2016年IUCN世界会議(ハワイ)

自然保護は草の根から

スチュアートさんはIUCNの種の保存委員会の議長を8年勤め、任期をしゅうりょうした2016年に長年勤めたIUCNを退職しました。2017年からはシンクロニシティ・アースという、野生生物の保護活動に対して資金を提供している組織で働くことになりました。スチュアートさんは、保護活動の未来はおうべいの国を中心とした大組織よりも、熱帯地域にある国々で草の根活動をしている現地の組織にかかっていると思うようになっていました。そこで、両生類の保護事業など、スチュアートさんが関心のある活動をたくさん行っているシンクロニシティ・アースで、草の根の自然保護活動のえんたずさわることにしたのです。

家族とワイオミングの国立公園にて

家族とワイオミングの国立公園にて

世界規模での野生生物の保全に向き合い続けてきたスチュアートさんは、よりよき未来をつくるためには、国境は関係ないと実感しています。気候変動や食料問題、水問題、エネルギー問題、そして新型コロナウイルス、いずれも国境でへだてられることなどない、世界共通の問題です。

南アフリカの喜望峰にて

南アフリカの喜望峰にて

同じ問題に向き合っている私たちは、私たちの世界を見直して自然と共生するやり方を見つけ、現在の世界よりかんだいで思いやりのある社会を作ることができるのでしょうか。スチュアートさんは必ずできると思っています。「一人ではなくみんなで協力し合い、ちがっていると思うことにはきちんと反対し、しかし相手を敵とはみなさず尊重することが大切です。そして、とにかく希望を持ち続けてほしい」というのが、若いみなさんへのスチュアートさんのメッセージです。

受賞者インタビュー

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サイモン・スチュアート博士

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