2. 生まれ変わったレッドリスト

IUCNにおう

ぜつめつ種の保全を志すようになったスチュアートさんは、1983年、博士課程を終える少し前から、国際鳥類保全会議(現:バードライフ・インターナショナル、ICBP)においてアフリカの鳥類のレッドデータ・ブックを作るのを手伝うようになりました。レッドデータ・ブックとは、初期のレッドリストです。
そのころ、交際していたアンさんが、スイスのジュネーブで生物の教師として働いていました。ジュネーブきんこうに国際自然保護連合(IUCN)の本部があると知っていたスチュアートさんは、1985年にIUCNに応募し、せまき門をとっして採用されました。アンさんとは翌年、けっこんしました。
このIUCNで、スチュアートさんは種の保存委員会(SSC) の仕事をすることになり、レッドリストに関わるようになったのです。

IUCNレッドリスト

ぼうとうでごしょうかいしたように、レッドリストとは、ぜつめつのおそれのある野生生物のリストです。日本のかんきょう省によるレッドリストなど、各国や各地域で独自に作成しているレッドリストもありますが、そのおおもとになっている国際版が、IUCNが作成しているレッドリストです。にゅう類、鳥類、ちゅうるい、両生類、魚類、無せきつい動物といった動物のほか、植物、きんるいに至るまで、世界中のあらゆる生物を対象に、絶滅のおそれの程度に応じて(1)絶滅(EX)(2)野生絶滅(EW)(3)深刻な危機(CR)(4)危機(EN)(5)危急(VU)(6)じゅん絶滅(TN)、(7)ていねん(LC)、(8)データ不足(DD)の、いずれかのカテゴリーに分類します。
毎年、けいさいされる野生生物は増え続けています。2020年11月現在、約13万種の野生生物について評価され、うち、35,500種以上の生物が絶滅危惧種であるとされています。このレッドリストに基づいて野生生物や生態系の保全計画が立てられるなど、世界中でしんらいされている、極めてえいきょう力の大きいリストです。

レッドリストを作り直す

しかし、レッドリストは最初から今のようにしんらい性の高いものだったわけではありません。先ほどごしょうかいしたように、レッドリストでは生物をぜつめつのおそれの程度に応じてカテゴリー分けするのですが、昔のレッドリストでは、それをどのような基準で分けるかがあいまいだったのです。そのため、自分の守りたい動物を「絶滅のおそれが高い」と言って保護のための資金を得ようとする人や、経済的に価値のある動物を商業取引しやすくするために「絶滅のおそれが低い」ことにしたい人などが出てきて、レッドリストの客観性に疑問を持つ人も出てきました。
そこで1987年、IUCNの種の保存委員会ではレッドリストを作り直すことに決めました。カテゴリー分けのための科学的に信頼できる基準を作ることにしたのです。ロンドン動物学協会から招いた若き研究者のジョージナ・メイス教授がリーダーとなり、IUCNの担当者としてスチュアートさんがメイス教授とともに仕事をすることになりました。

スチュアートさんとメイス教授のミッションは、生物がどのようなじょうきょうになればどの程度、絶滅のおそれがあると言えるのか、科学的に明確な基準を作ることでした。これは非常に大変な作業で、しかも植物学、動物学、海洋科学、たんすい科学、きんるいこんちゅうなど、各方面の専門家に協力してもらう必要がありました。
スチュアートさんは、大変な作業に協力してくれる専門家をいかに集めるかについて非常に苦労しました。しかし、ここからがスチュアートさんのうでの見せ所です。まずは、進んで協力してくれそうな前向きなタイプの専門家を選んで声をかけ、確実に協力者を増やしていったのです。そうして段々、協力する専門家たちが増えてくると、乗り気ではなかった専門家も次第に協力せざるをえなくなってきます。

こうして、スチュアートさんは、何百人もの専門家から協力を取り付けることに成功しました。そして、ついに1996年、新しいカテゴリーと基準に基づいたレッドリストが初めて刊行されました。

1996年刊行のIUCNレッドリスト

1996年刊行のIUCNレッドリスト

生まれ変わったレッドリストには、先ほどもご紹介した、(1)絶滅(EX)(2)野生絶滅(EW)(3)深刻な危機(CR)(4)危機(EN)(5)危急(VU)(6)じゅん絶滅(TN)、(7)ていねん(LC)、(8)データ不足(DD)のカテゴリーがあり、そのうち、(3)深刻な危機(CR)(4)危機(EN)(5)危急(VU)の3つが絶滅危惧とされています。絶滅危惧にはそれぞれ、野生生物がどのような状態であればそのカテゴリーに当てはまるのかについて、定量的な基準が用意されています。例えば、その野生生物が昔に比べてどれくらい減少しているのか、分布域がどれくらい限定的で分断されているのか、といったことについて基準があり、基準に照らし合わせることで、この生物は「危機」、この生物は「深刻な危機」……というふうに判断します。

※レッドリストのカテゴリーと基準は、2001年にもう一度、若干の見直しがなされました。ここでは、最新版である2001年版のカテゴリーをけいさいしています。

1996年版のレッドリストでは、実際に数千種類の生物が新しいカテゴリーと定量的な基準に分類されて登録されました。このようにして、どのような生物も的確に分類することができるようになったのです。

3. 両生類はなぜ減っている?

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サイモン・スチュアート博士

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