1. ぜつめつ種を守りたい

動物や植物とともに育つ

スチュアートさんは1956年にイギリスのウエスト・ミッドランド州で生まれ、イギリス南部のドーセット州の田園地帯のすぐ近くで育ちました。そこは温暖で、イギリスの中でもめずらしい動植物がたくさんいる場所でした。

母と兄弟たちと(右端がスチュアートさん)

母と兄弟たちと(みぎはしがスチュアートさん)

スチュアートさんは、自然の中で友達と川下りをしたり自転車で遠くまで探検したりしながら、珍しい鳥やちゅうるい、両生類など、多くの野生生物に興味を持ち、10さいくらいのころには動植物についてかなりくわしくなっていました。

10歳のころ

10歳のころ

中学生のときに、野生生物に詳しい生物学の教師、ティム・フッカー先生と出会いました。先生は、授業の時間以外にも、自然史や野生生物についてたくさんのことを教えてくれました。鳥の数え方、鳥の鳴き声で種類を判別する方法、毒ヘビなどの爬虫類や両生類のつかまえ方、魚の捕まえ方と見分け方、キノコの種類と食べられるかどうかの見分け方、調理の仕方……こうしてスチュワートさんはますます野生生物にかれるようになりました。
さらに、フッカー先生は、自分の友人である著名なチンパンジー研究者のジェーン・グドール博士をしょうかいしてくれました。スチュアートさんは大学に入る前の一年間、グドール博士の息子さんの家庭教師としてアフリカのタンザニアで暮らし、勉強を教える時間以外は鳥を観察したり、ヒヒやチンパンジーを探し回ったり、タンガニーカ湖で泳いだりして過ごしました。タンザニアの自然や野生生物、人々の伝統や文化などを自分の目で実際に見たことは、18歳のスチュアートさんにとっては大変、しんせんな体験でした。そのころには、将来は野生生物の研究をしたいと思うようになっていました。

鳥類の研究

フッカー先生の母校でもあるケンブリッジ大学に入学したスチュアートさんは、本格的に生物学を学び始めました。クリスチャンになり、また、のちにおくさんとなるアンさんと出会ったのもこのころです。

大学時代

大学時代

大学時代

大学時代
ひだりはしがアンさん、左から3人目がスチュアートさん)

博士課程では、タンザニア北東部のウサンバラ山地に3年間こもってフィールドワークを行い、鳥類の調査をしました。

タンザニアにて(1978)

タンザニアにて(1978)

その山地にはめずらしい鳥、絶滅危惧種の鳥類がたくさんいて、スチュアートさんはそれらの鳥のデータを集めていました。それぞれの鳥が好む生息場所、その場所の植物の様子、標高、それぞれの鳥の個体数など、様々なことを調べるのです。鳥類は基本的に森林の中にいるので直接、目で見られないことも多く、個体数を鳴き声だけで判別して確認したりもしていました。

タンザニアにて(1981)

タンザニアにて(1981)

当時は大規模な森林かいが起きていたので、森林破壊が鳥類におよぼすえいきょうも調べました。その中で、新しい発見がありました。鳥たちの多くは、少し寒い時期は山の上の森からふもとの森に移動し、暖かい時期は山の上の森にもどってはんしょく活動をしていました。調査場所は赤道近辺で、季節の変化が少ない場所でしたが、鳥たちは季節によって住処を変えて移動していたのです。つまり、山の上の森もふもとの森も鳥たちには必要であり、例えば山の上に少し森を残しておけばふもとの森はばっさいしても鳥たちはだいじょうだろう、といった考え方は全くちがっていて、どちらも保護する必要があるとわかったのです。
この発見は、一帯の森林保全の考え方に大きな影響をあたえました。

野生生物保全への興味

タンザニアでのフィールドワークで、スチュアートさんは、2つのことに気づきました。1つ目は、鳥類の保全に関わる調査をし、自分がやりたいのはぜつめつ種の保全なのだと明確になったこと。2つ目は、自然保護は科学だけではできないということです。どんな生物をどこでどのように守ればよいかについては、調査や研究など、科学で答えを導き出せますが、それを実現するためには、現地の人々に協力してもらわなければなりません。
タンザニアの村には外部の人間をけいかいする人も多かったため、遠くはなれた新しい場所に行くときは絶対に一人で行ってはだめで、同行者から自分のことをきちんとしょうかいしてもらい、村長にあいさつをしてしきをしてもらい……といった手順をふんで、ようやく調査を開始できたのでした。大変でしたが、スチュアートさんはこうした中で現地の文化を学び、厳しい自然ととなり合わせで暮らしている人々に敬意をはらうようになりました。

自然を保護するためには、地域社会や研究者など、たくさんの人たちとコミュニケーションをとり、よい関係を築き上げることが不可欠なのだと、スチュアートさんはこのとき学んだのです。

2. 生まれ変わったレッドリスト

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サイモン・スチュアート博士

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