「一筋縄ではいかない」のが世界だ
大学の博士課程を終えようとしていたとき、シェルンフーバー教授にすばらしいチャンスが訪れました。教授は博士論文で物理の根源的な難問に挑んでいたのですが、その博士論文の内容に著名な物理学者のグレゴリー・ワニエ博士が目を止め、アメリカに招いてくれました。
「これはすばらしい論文だ。実はUCSB理論物理学研究所(ITP)といって、最近アメリカにできたばかりの物理学の研究所があります。研究員として研究所に来ませんか。」と声をかけてくれたのです。
そこは夢のような環境でした。その研究所には80人ほどの研究者がいましたが、その多くがノーベル賞受賞者です。ちょっとコーヒーを取りに廊下に出ればノーベル賞受賞者がいて、「お若いの、君はいったい何の研究をしているんだい」などと気さくに話しかけてくるのです。そうそうたる顔ぶれの中で知的な議論を繰り広げる毎日が、教授は楽しくてしかたがありませんでした。