学習の手引き
ハンス・J・シェルンフーバー教授のものがたりはいかがでしたか?
ここは、みなさんがものがたりについて復習したり、理解を深めたりするためのページです。ここだけに書いてあることもありますよ!
<対象:小学校高学年以上>
まずはクイズです!
問1:2015年、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で世界の196カ国が「2℃目標」に合意しました。さて、その会議が開催された都市はどこ?
問2:地球温暖化対策について、シェルンフーバー教授の考え方に最も近いのはどれでしょう?
こたえ
問1:2015年、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で世界の196カ国が「2℃目標」に合意しました。さて、その会議が開催された都市はどこ?
こたえ:3. パリ
COP21は2015年にフランスのパリで開催されました。よって、この時の歴史的合意のことを「パリ協定」と呼びます。このパリ協定の合意には、議長国フランスの巧みな会議進行もおおいに貢献したといわれています。
このように、協定、宣言、合意などにはその舞台となった都市の名前が付けられることが多いですね。例えば、1997年には日本の京都で開かれたCOP3において初めての国際的な地球温暖化防止のための協定が結ばれ、これを京都議定書といいます。この時に参加したのは55カ国で先進国が中心でしたが、18年後のパリ協定には発展途上国も含め、実に196カ国が参加しました。
この気候変動枠組条約締約国会議の記念すべき第一回目、COP1が開かれたのが、ドイツのベルリンでした。後のドイツ首相、当時のアンゲラ・メルケル環境大臣が議長を務め、シェルンフーバー教授も同席したあの会議です。
なお、ドイツのポツダムには、シェルンフーバー教授が所長を務めるポツダム気候影響研究所があります。大きな森に囲まれた美しい建物の、とても素敵な研究所ですよ。
問2:地球温暖化対策について、シェルンフーバー教授の考え方に最も近いのはどれでしょう?
こたえ:2. 将来的に取返しのつかないことにならないよう、一刻も早い対策が必要だ。もう時間的猶予はない。
シェルンフーバー教授は長年、地球温暖化によって引き起こされるかもしれない、人類にとって重大な脅威になりえる現象について研究してきました。そしてもう一刻も猶予はない、ということを強く訴えています。かつては地球温暖化対策が経済的成長と相反するものと考えられていましたが、パリ協定以降は逆に、温暖化対策を新しい技術や素材を売り込むビジネスチャンスと考える企業なども多く出てきています。
教授が研究を始めた1990年代初頭は地球温暖化という現象が認識されてまだ間もないころでしたから、それは本当に人間のせいなのかと疑う声もありました。しかしその後、研究がすすみ、今は地球温暖化の主な原因が人間の排出する温室効果ガスである可能性は極めて高い(95%以上)と言われています。
地球温暖化の影響はすでに世界各地に現れ始めていますが、このまま温暖化が進行したとしてもグリーンランドの氷床が全て融けるなどの深刻な事態になるのは何百年も後になるかもしれません。しかし、それを防ぐためにはこれから数十年が勝負なのです。私たちが生きているうちはよくても、私たちの子どもたち、そのまた子どもたちはどうなるでしょうか。教授は彼らに、せめて今より悪化していない地球を手渡したいのです。
ここはおさえておこう
地球温暖化対策が必要なのはなぜか。
地球温暖化がこのまま進めば、例えばどんなことが起こるのか。
もっとくわしく
シェルンフーバー教授の主要な研究テーマのひとつ「ティッピング・エレメント」。地球温暖化によって起こりえる急激な変化の中でも、特に大規模で地球環境に決定的な影響を与える、人類にとって重大な脅威となりえる現象です。
ものがたりにも出てきたこちらの図には、地球上で起こりえるさまざまなティッピング・エレメントが示されています。ものがたりの中でいくつかはご紹介しましたが、ここでは、主にそれ以外のティッピング・エレメントについてご紹介します。
雪氷圏における氷床などの融解
北極や南極、山岳地域など、雪と氷で覆われた地域において、気温の上昇によって氷が溶けだす現象です。
みなさんは、虫眼鏡で太陽の光を集めて黒い紙を焦がす実験をしたことはあるでしょうか? なぜ黒い紙を使うかというと、色が薄いものより濃いもののほうが太陽光を吸収しやすく、温度も上がりやすいからです。
一方、よく晴れた日に一面の雪原などを見たことがある人はわかると思いますが、目を開けていられないほどまぶしいですね。これは白い雪や氷が太陽光のほとんどを反射するからです。ところが氷が溶け始めて下の黒い土や岩、あるいは青い海などが見えてくると、太陽光を吸収しやすくなります。つまり、ひとたび氷が融け始めるとさらに気温が上がって地域の温暖化が進み、氷の融解もより加速する……という悪循環がおきてしまうのです。
北極海の海氷の喪失
北極海に浮かんでいる海氷の範囲が狭まったり、氷が薄くなったりする現象です。特に寒い冬よりも暑くなる夏において顕著です。ここ数十年で急速に進んでいる現象で、21世紀の終わりごろには夏の北極海には氷がなくなってしまうかもしれません。
グリーンランドの氷床の融解
南極の氷床融解
永久凍土の融解
シベリアやアラスカなど、高緯度の寒冷な地域や標高の高い地域には、一年を通して地面が凍ったままの「永久凍土」があります。この永久凍土には、およそ一万年前の最後の氷河期以来、膨大な量の温室効果ガス(二酸化炭素やメタン)が封じ込められています。もし永久凍土が溶けると温室効果ガスが大量に大気中に放出されることになり、地球温暖化を更に加速させる可能性があります。
海からのメタン排出
「メタンハイドレート」は温室効果ガスの一種・メタンを含む氷のような物質です。東シベリアに近い北極海底などに多く蓄積されています。低温かつ高圧な条件下でしか固体の状態を保てないので、深海で水温上昇などが起きるとメタンハイドレートが融解して大量のメタンに変わり、大気中に放出されて地球温暖化を非常に加速させる可能性があります。
大気や海洋などの循環システムの変化
大気や海洋の循環は、地球全体の気候を調整する役割を担っています。この気流や海流が流れる位置や速度は気温や水温と密接な関係があるため、地球温暖化によって気温が上昇すると、このシステムにさまざまな乱れが生じることになるのです。
海洋深層大循環の減速
エルニーニョ・南方振動(ENSO)
通常、東から西に吹く貿易風は、南米付近の太平洋東側の冷たい海水を海底から上昇させるとともに表面の暖かい海水を太平洋の西側、インドネシア付近まで運んでいます。ところが、貿易風が弱まって暖かい海水が太平洋東側から中部にとどまることでその付近の海水温が上がり、数カ月〜一年ほどこの状態が継続することがあります。これをエルニーニョ現象といい、世界各地に異常気象を引き起こします。数年おきに起こる現象ですが、地球温暖化によってこの現象はさらに大規模になり、また頻度が増す可能性もあります。
ジェット気流の減速・停滞
ジェット気流とは、北半球の中緯度で地上10kmあたりを蛇行して吹く速度の速い西風です。この速度は北極と赤道の温度差が大きいほど早くなるのですが、地球温暖化によって北極の温度が上がるとこの温度差が小さくなってジェットストリームが減速し、それが様々な異常気象を起こす可能性があります。
モンスーンの不安定化
夏、インドやインドシナ半島に吹くモンスーン(季節風)は海から吹く暖かく湿った西風で、これらの地域に降雨をもたらしてくれます。しかし、地球温暖化の影響によって降雨量に影響が出た場合、干ばつや洪水が引き起こされる可能性があります。
西アフリカモンスーンによるサハラへの影響
アフリカにもギニア湾から吹く西アフリカモンスーンが降雨をもたらしており、地球温暖化の影響が出る可能性がありますが、どう出るかについてはまだよくわからないのです。降雨量が減ってサハラ砂漠の南縁部、サヘル地域の干ばつがさらに深刻になるという予測もありますが、逆に降雨量が増えてサハラ砂漠の緑化が進むかもしれません。
緑化というのはなんだかいいことのようですね。しかし、それによって、サハラ砂漠の砂塵の遮断という新たな問題が起こる可能性もあります。サハラ砂漠の砂塵は風によって巻き上げられ、大西洋を越えて南北アメリカ大陸まで到達しますが、これは害をもたらす一方で、カリブ海のサンゴ礁やアマゾンの熱帯雨林に貴重な栄養分を補給してくれてもいるのです。
米国南西部の乾燥
米国南西部は現在でも乾燥地帯ですが、この地域もモンスーンとよく似たシステムの影響下にあり、降雨量が減少すればさらに乾燥が進む可能性があります。
生態系の変化
地球温暖化によってある地域が暑くなったり乾燥したりすると、そこに元々いた植物や動物が住めなくなってしまう可能性があります。より高地、あるいは極地に近い場所に移動することで生き続けられる生物もいるでしょうが、今、すでに高地、あるいは極地に住んでいる生物は、もう移動するところはありません。
また、森林は二酸化炭素の吸収源としても重要な役割を果たしており、それが失われることは、温暖化の促進につながると懸念されています。
アマゾン熱帯雨林にもたらされる変化
北方林の減少
北欧や北アメリカの針葉樹林は世界の森林の3分の1にもなり、独自の生態系を持つほか、大量の二酸化炭素を土壌に蓄積する役目も持っています。極地に近い寒冷な気候に適応したこれらの森林は、気温の上昇の影響を顕著に受けやすく、森林が失われることによる生態系の破壊や二酸化炭素の放出が懸念されています。
サンゴ礁の白化・死滅
海洋生物ポンプの弱まり
海洋は最大の二酸化炭素吸収源で、人間の排出した二酸化炭素の40%を吸収します。その二酸化炭素は、植物プランクトンなどに取り込まれ、やがて遺骸とともに海中に沈みます。しかし、二酸化炭素を放出しすぎることで海洋が酸性化するため、これらの機能が弱まることが懸念されています。
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