指導者のかたへ

「ブループラネット賞ものがたり」は、環境学習にも広くご利用いただきたいという思いから、ひとつの「ものがたり」に対して「学習の手引き」「参考情報」そしてこの「指導者のかたへ」という、三つの「環境学習補助コンテンツ」を用意しています。
このページでは、指導者のかたが教材として利用することを想定し、指導の助けになるような情報を掲載しています。
学校での環境学習の授業や、お子さまの自主学習などに、ぜひお役立てください。

<対象:学校の先生、保護者など、教育指導にあたるかた>

  • ものがたりの要旨
  • ものがたりに書かれている受賞者の功績について、要点をまとめています。
  • 指導方法の例
  • ディスカッションやグループワークの例題を、具体的な実施手順も含めて掲載しています。

ものがたりの要旨

気候変動問題の研究の第一人者であり、パリ協定で合意されたいわゆる「2℃目標」に大きく貢献したシェルンフーバー教授。物理学者である教授は、特に複雑で予測不可能な自然現象を取り扱う「カオス理論」への造詣が深く、所長としてポツダム気候影響研究所を率いて気候変動の将来予測の研究を推し進めてきました。
「なぜ地球温暖化対策が必要なのか? それは、そうしなければ取り返しのつかないことが起きるからだ」教授の研究はこのシンプルな理由を具体的に裏付けるために始まりました。そして「絶対に避けなければならないこと-ティッピング・エレメント」のリストを作り、それを回避するための「2℃」という具体的な指標を国際的な議論の場に持ち込み、ついには地球温暖化対策の方向性そのものを変えていったのです。
このような偉業を成し遂げられたのも、シェルンフーバー教授が研究によってわかったことを積極的に世界に発信し続けてきたからです。「科学者は自分が知りえたことを社会に説明する責任がある」というのが、教授の活動を支える強い信念です。このことについてもぜひ考えてみてほしいと思います。


指導方法の例

指導に迷われた場合は、以下を参考にしてみてください。

地球温暖化の影響について

【ねらい】

「最終的には個々人の決断が地球温暖化対策に力を発揮する」というのがシェルンフーバー教授の意見です。決断のためには「知ること」と「考えること」が必要です。
現在はインターネット上などで容易に大量の情報を得られるようになった一方で、根拠のない憶測や偽情報も飛び交っています。特に、地球温暖化の問題は政治的、経済的な問題とも密接な関係にあるため、科学的な根拠を欠くセンセーショナルな主張なども多く見受けられます。そのような情報を疑いもせず鵜呑みにしてしまうことは非常に危険です。
そこでこのワーク課題では、地球温暖化によって起こる可能性のある現象について科学的な前提を整理し、さらにそれについてどう思うか話し合うことで、信頼のおける情報を選び取る能力、そして主体的に考える能力を養います。

1. 地球温暖化によって起こる可能性のある現象を調べてみよう
①研究テーマとして「地球温暖化によって起こる可能性のある現象」をひとつ選び、調べてみます。
同じ研究テーマを選んだ数人でグループワークを作ってもかまいません。

※テーマの候補はあらかじめいくつか指導者が提示してもいいでしょう。シェルンフーバー教授たちの研究による「ティッピング・エレメント」が参考になると思いますが、他の出典から採用してもかまいません。ただ、先述のように地球温暖化については不確かな情報も多くあります。特に各自がインターネットで調べる場合は、なるべく官公庁や公的機関などによる信頼のおける情報を選ぶように指導してください。

②わかったことを整理します。
(例)選んだテーマ:北極海の海氷がなくなる!?
概要
近年、北極海に浮かんでいる氷の面積が減ったり厚さが薄くなったりしている。
このままでは21世紀の終わりごろには、夏の北極海には氷がなくなってしまうかもしれない。
しくみ
気温の上昇にともない、氷が融ける。
白い氷は太陽の光を反射するが、青い海は太陽の光を吸収しやすいので、氷が融けて白い氷より青い海の範囲が広くなってくると、さらに気温が上がって、さらに氷が融けてしまう。そういうこともあって、雪や氷の多い北極や南極は、もっと低緯度の地域よりも気温が上がりやすいと言われている。
影響
  • 北極の生態系が破壊されてしまうおそれがある。例えば氷の上でアザラシなどを獲って生きているシロクマ(ホッキョクグマ)は絶滅の危機に瀕する。
  • また、昔から北極圏に住み、狩猟で生計を立ててきたイヌイットの人々の生活や文化も脅かされている。
なぜこれを選んだのか
  • シロクマが好きなので、いなくなったら嫌だと思ったから。
  • 北極は寒そうで氷もたくさんありそうなのになぜ数℃温度が上がっただけで融けてしまうのか不思議だったから。
③整理した結果を各自発表し、質疑応答を行います。
<指導のポイント>

「テーマを選んだ理由」までを書き出すことで、テーマについて主体的に考え、次の議論につなげるきっかけとします。
選んだ理由には、自分に直接関係しそうな利害から、漠然とした不安、地球規模の憂慮まで、様々な要素が出てくる可能性がありますが、どのような意見であっても、そう考えた理由や背景を明らかにすることで、その後の議論につなげやすくなります。たとえ「シロクマが好きだから」という個人的な好みの問題であっても、例えば「シロクマ以外にも影響を受ける動物がいるかどうか調べてみよう」といったように、議論や学習範囲を発展させることで、より理解が深まります。

2. 私たち人間はどうすればよいかを話し合ってみよう。
1.で発表された内容をベースにして、私たち人間がどうすればよいかを話し合ってみましょう。

(例)
「生態系の破壊は一大事だ。何とか氷が溶けるのを止めないと」
「氷がなくなるのって悪いことばかりなのかな。船が通れるようになって便利かも」
「でも一度生き物が絶滅してしまったらもう蘇らない」
「氷が減れば減るほど気温も上がってしまうらしい。そしたら北極だけでなくて地球全体の温暖化が進んで私たちの国にだって影響が出てくる」
「やっぱりそもそもの原因である地球温暖化を何とか抑えていきたい」
「ただ、もうすでに氷は減っている。氷が増える手立てを考えつつ、氷が減った北極海で今いる生き物が生きていけるような道も探ったほうがいいんじゃないだろうか」

<指導のポイント>

「寒いところが暖かくなれば過ごしやすくなるのではないか」というような、肯定的な意見についても一つの意見として否定しないようにします。ただし、地球温暖化への対策が必要なことは科学的知見に基づく世界的な合意であるという事実は、前提として説明する必要があるでしょう。
また、地球温暖化対策では、まず温室効果ガスを抑制するなどして気温上昇自体をコントロールする「緩和策」を目指していますが、それでも完全に温暖化を防ぐことはできないので、せめて温暖化による悪影響を少しでも避けようという「適応策」も合わせて進められています。こうした考え方に基づき、さらに議論を深めていけるとよいでしょう。

menu

ハンス・J・シェルンフーバー教授

English