4. 災害対策のこれから

CREDの新たな課題

1992年以降、災害えきがく研究センター(CRED)の所長を務めているグハ=サピールさんは、近年の災害の状況を受けて、CREDも進化していかなければならないと考えています。

例えば、かつては物理学、大気物理学、気象学、気候学など、それぞれの分野ごとに研究を行っていましたが、これからはみんなが協力して、専門分野のかきを超えておたがいの専門データを使用し統合し、よりよいデータや研究結果につなげようとしています。

また、グハ=サピールさんは新しいプロジェクトとして、人道危機における死因を検証する研究も行っています。単なる死亡者数だけでなく、自然災害、武力ふんそう、宗教的はくがいなどの大規模な人道危機における死亡の根本的な原因を細かく検証します。多くの国では死亡者の約3分の1しか死亡証明書がなく、大半には死因が明記されていません。適切な対策をとるためには、なぜその人が亡くなったのか(感染症、栄養不良、外傷、心臓病、あるいはまんせい疾患など)より正確にあくすることが不可欠です。

学問分野の垣根を超えた研究、そして死因の検証に関する研究を進めていくことが、CREDの今後の新たな課題だとグハ=サピールさんは考えています。

洪水防御構造についてのミーティング

洪水ぼうぎょ構造についてのミーティング

ベナンでのミーティング(2015)

ベナンでのミーティング(2015)

プライベート

グハ=サピールさんのしゅは音楽とガーデニングです。インドの伝統的な音楽をライブで聞いて育ったグハ=サピールさんは、今でもできるだけ生のコンサートに行ってライブで音楽を楽しんでいます。ガーデニングでは、植物が成長し、れ、そして再生するのを見ると落ち着いたおだやかな気持ちになれるそうです。

パートナーのアンドレさんは経済学者で、分野はちがいますが同じ研究者同士であることから、深く理解し合える存在です。そしてグハ=サピールさんの仕事にも、経済学者としての視点から思わぬ気づきを与えてくれることがあります。以前、アンドレさんが飢饉の影響の職業による違いを調べてみたらどうかと助言してくれたことがあったそうです。例えば、飢饉が起こったとき、食べ物もろくにない状況であれば、理容師に髪を切ってもらおうといったことは後回しになります。そうすると、理容師のような職業の人たちはより大きな影響を受けることになります。同じように貧困であっても、職業によって影響の大きさに差が生じるのです。このようにアンドレさんは保健衛生とは全く異なる視点をもたらしてくれました。グハ=サピールさんはそんなアンドレさんを深く尊敬しています。

アンドレさんは、グハ=サピールさんのことをクリエイティブで臨機応変、そしてとてもポジティブな人だと言います。グハ=サピールさんが難民キャンプでこくな状況を目にして帰ってきたとき、そのような状況の中で見出した希望の光について語っていたからです。お互いにいそがしい中、週末に料理上手のグハ=サピールさんがいろいろな料理を作る姿を目にして、おいしい料理のかおりを楽しむのがアンドレさんのいこいのひと時だそうです。

料理好き

料理好き

グハ=サピールさんからのメッセージ

「特に異常気候の現場で苦しんでいる人々の問題に対処することが極めて重要であることを理解しなければなりません。電気自動車や風力発電など、多くのグローバルな議論や重要な進展があった一方で、現地で苦しんでいる人々の生活を改善することには十分な関心がはらわれていません。現地の人たちは、気候変動の最前線に立っていますが、その原因を作ったわけではありません。気候問題が起きているのはきょだいな西欧諸国に責任がありますが、実際には西せいおう諸国は気候変動の影響で苦しんでいる貧困国に十分な資金を出すことをちゅうちょしています。これまで以上に気候基金にもっと資金をつぎ込み、洪水や嵐など災害の影響を受ける貧困コミュニティのことをしんけんに考える必要があります。非常に限られた資源で暮らしている人たちの日々の生活に対応することが不可欠です。」

COPが始まって30年間、私たちが行ってきたことをり返り、考察する必要があると思います。気候変動や温室効果ガスのさくげんに対して国際的なわくみや具体的な目標を設定してきましたが、大きな成功は見られていません。産業革命以前に比べて、世界の平均気温のじょうしょうを1.5度におさえることが困難であり、むしろ後退している状況です。進んできた道が正しい道ではなかった可能性を認める必要があります。私たちはこのことから教訓を得て、現在気候変動の最前線にいる人々をどのように守るかを考えなければなりません。今後起こりうる災害に対して人々が対応できるような、より効果的な適応戦略をきんきゅうに求めなければなりません。」

「そして私たちの生活様式も変える必要があります。時間の経過とともに、私たちの生活は過度に消費主義にかたよってきました。消費社会には気候関連の問題だけでなく様々なネガティブな側面があります。西欧諸国、先進国に住む人たちは、消費財を使い捨てにするのをやめ、廃棄する食べ物を減らすことができるはずです。これから気候災害は増えていく見込みです。私たちは、豊かな国、貧しい国、世界中の人々を守るために、生活様式を見直していく必要があります。世界の未来を担う子どもたちや若者に環境や気候問題について教育することから始めたらよいと思います。」

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デバラティ・グハ=サピール教授

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