学習の手引き
グレッチェン・C・デイリー教授のものがたりはいかがでしたか?
ここは、みなさんがものがたりについて復習したり、理解を深めたりするためのページです。ここだけに書いてあることもありますよ!
<対象:小学校高学年以上>
まずはクイズです!
問1:自然には、手つかずの自然もあれば、人間が生活しているところにある、人間の手が入った自然もあります。デイリー教授は自然の保護についてどのように考えているでしょうか。
問2:デイリー教授はなぜ「自然の経済的価値」を人々に知ってもらうことが重要だと考えているのでしょう。
こたえ
問1:自然には、手つかずの自然もあれば、人間が生活しているところにある、人間の手が入った自然もあります。デイリー教授は自然の保護についてどのように考えているでしょうか。
こたえ:3. 手つかずの自然を守る事ことも、人間の手が入った自然を守ることも大事。
デイリー教授は、もともと手つかずの自然こそを守らなければならないと考えていました。しかし、コスタリカでの体験をきっかけとして、農場のように、人間が生活しているところにあり、人間の手が入った自然「カントリーサイド」にも豊かな生態系が息づいており、私たちに多大な恩恵を与えてくれていることに気付き、以降はそちらを主眼においた研究、活動をしてきたのです。ただし、手つかずの自然を守ることの大切さについても教授はよくわかっています。今、自然資本プロジェクトが手掛けている中国での取り組みは、まさにその両方を守ろうとする挑戦です。
問2:デイリー教授はなぜ「自然の経済的価値」を人々に知ってもらうことが重要だと考えているのでしょう。
こたえ:1. 自然に経済的価値があるとわかれば、自然保護に有効にはたらくから。
デイリー教授は、自然が経済成長のためと称してこれまで犠牲にされてきたのは、自然がたくさんの恩恵を人間にもたらしてくれているにもかかわらず人間がそれに気づかないからだと考えました。だから、自然が人間にとって不可欠なものだと、自然を過剰に消費することは経済成長にとっても逆にマイナスなのだと認識されれば、自然はもっと尊重されると考えたのです。
もちろんこれは自然を守るための有効な手段のひとつであって、自然の存在意義は人間にとっての経済的価値だけではありません。
ここはおさえておこう
「カントリーサイド」はどんな自然か。
「自然の価値」とはどういうものか。
もっとくわしく
デイリー教授が大切にしてきた「カントリーサイド」。ここでは、カントリーサイドの具体例をご紹介しましょう。といっても、みなさんが普段、目にする自然のほとんどはカントリーサイドなのですが、ここでは特に、人との関わりが重要な役割を果たしてきたカントリーサイドを取り上げたいと思います。
ご紹介するのは、西洋の国・ドイツと、東洋の国・日本のお話。この二つの国の歴史を見てみると、自然に対する考え方が少し違っていたことがわかります。
西洋で広く信仰されているキリスト教では自然は神様がつくったもので、人間はその中でも特別という前提があります。それが人間は自然をきちんと管理し、よりよい方向へ導く責任があるという考え方の土台にもなっています。
一方、日本古来の信仰では「八百万の神」と言って自然を含めた万物に神様が宿っていて、人間も別に特別ではありません。そんな自然に対し、日本人は畏敬と親しみの念を持って接してきました。
背景は違っても、自然を大切にしたい気持ちは同じ。世界中がお互いの異なる価値観を認め合い、これからの環境保全に生かしていけるとよいですね。
ドイツの森林
デイリー教授が少女時代を過ごしたドイツ。ドイツは国土の3分の1が森林で覆われています。そして、そのほとんどは原生林ではなく、人の手が入った森林です。
本文でも触れたように、ドイツでは昔から森林は人間が管理するものでした。伝統的にドイツではほとんど全ての森林で林業が行われていますが、特に19世紀後半の産業革命の頃には燃料として過度な伐採が行われたり、経済性を優先して、成長の早い針葉樹のトウヒやマツばかりを植えたりして、画一的な森林にしてしまったという経緯があります(自然の状態であればブナやミズナラなどの広葉樹が主に生える地域です)。
しかし、そんな経験から、世界に先駆けて持続可能な森林利用という概念が生まれたのもドイツです。デイリー教授が目の当たりにした1970〜80年代の酸性雨被害などの試練を経て、今日のドイツでは、針葉樹と広葉樹が混ざった多様な植生の美しい森林で持続可能な林業を実現しており、人々はそんな森林にハイキングに出かけ、景観を楽しみ、生活の一部としています。ドイツでは、森林を管理する「森林官」といえばあこがれの職業のひとつ。専門教育を受けた森のスペシャリストで、一つの地域の森を長年担当し、林業から森林教育までその森に関すること全てに携わり、森の保全に寄与しています。
そして、森林と人間の距離の近さは、森にちなんだ多様な文化を生み出しました。グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」や「眠れる森の美女」も、ドイツの森があってこそ生まれたのです。
日本の里山
日本は森林が多い国で、実に国土の3分の2が森林。大部分が山岳地帯で起伏に富んだ地形を持つとともに、南北に長いことからさまざまな気候とさまざまな生態系がもたらされており、島国のため固有種も多い、生物多様性に富んだ国です。しかし同時に、都市開発による生態系の破壊も深刻で、国全体が世界の「生物多様性ホットスポット(生物多様性が高いにもかかわらず脅威にさらされている地域)」のひとつに選定されています。
この日本にも、全く手つかずの自然というのはごくわずかしか残っていません。大半は人間が手を入れてきた自然です。その中でも、都市と人里離れた自然(深山)との中間に位置し、伝統的に日本の農村とともにあった自然のことを「里山」といいます。稲作を中心に行ってきた日本の農村の人々は水田を作り、そこに水を引くための溜め池や水路を整備し、燃料となる薪や畑の肥料となる落ち葉などをとるために雑木林に手を入れてきました。このように、人間が身近な自然に対して働きかけ続けることで、独自の生態系を生み出してきたのです。
日々の生活のために里山の恵みは不可欠でしたが、油断するとすぐ取りすぎてしまいます。なので、江戸時代くらいから幕府が木を切りすぎないよう厳しいお触れをだしたり、村の人が互いに取り決めを交わすことで、里山の持続可能な利用を実現してきたのです。
近代に入ってからは経済開発の波が日本にも押し寄せ、里山は危機にさらされました。近年では、農業の従事者が減ったことで逆に人の手が里山に入らなくなり、生態系が維持されなくなっているという問題もあります。
近年は、この里山のあり方を見直し保全することで、人間と自然環境の持続可能な関係を探ろうという「SATOYAMAイニシアチブ」といった取り組みも行われています。デイリー教授も里山には非常に関心をもっていて、今年(2017年)も来日した際には忙しい合間を縫って、東京近郊の千葉の里山の見学に行ったそうですよ。
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