2. 自然を活かして保全する

グアナカステ保全地域

ジャンゼンさんの活動と切っても切りはなせない関係にあるのが、グアナカステ保全地域です。グアナカステ保全地域は、きょだいな生物多様性保全地域であり、いくつかの国立公園と保護区から成ります。その保護区の一つは、ジャンゼンさんが代表を務め、おくさんのホールワックスさんが副代表を務める基金によって運営されています。

総面積は陸海あわせて16万5千ヘクタールにおよび、グアナカステ保全地域には約37万5千種以上の生物種が生息しています。これはなんと、世界の生物種の2.6%、アメリカとカナダを合わせた地域の75%、コスタリカ全土の65%にあたる数です。

ジャンゼンさんとホールワックスさん

ジャンゼンさんとホールワックスさん

ジャンゼンさんはコスタリカで動植物の研究を行う一方で、森林がかいされていく様子を目の当たりにしてきました。そこで、ホールワックスさんや他の仲間たちとともにグアナカステ保全地域を作ることを考えたのです。そして、政府とのこうしょうやNGOと協力しての資金集めといった苦労の末に、世界初の100%寄付金で出来上がった国立公園が誕生しました。

ジャンゼンさんたちがまず取り組んだのは、ぼくちくなどの人間の活動によってばらばらになった熱帯かんそう林という森林を再びつなぎ合わせることでした。草地と化していたかつての森林を買い上げ、植林を行いました。そしておどろくことに、10年後には保全地域内の草地のほとんどを小さな樹木や若い森林に変えることに成功したのです。

次に取り組んだのは、野生動物が季節ごとに移動するための通り道を作ることです。野生動物はいつも同じ場所にとどまっているわけではありません。コスタリカには乾燥林だけでなく、うんりんや雨林があり、野生動物は季節ごとに住みやすい環境に移動しながら暮らしています。これらを行き来する通り道を作ることが多様な生物が生き残るために大切なのです。ジャンゼンさんたちは、ここでもそれぞれの地域をつなぐための植樹を行い、いまではバクやピューマなどの大型動物でも通ることのできる道ができつつあります。

グアナカステ保全区域

グアナカステ保全区域

グアナカステ保全地域の事業の中で、かれらは、牧場を買い取って森林を再生し、野焼き、森林ばっさい、狩猟をやめてもらうための防止策をとりました。一方で、地域住民を消防夫としてようする等、広く複雑な保全地域を守るための仕事を地域の中で創り出しています。さらにきんりんのすべての学校に野外学習プログラムを提供しています。ジャンゼンさんは、生物多様性を保全しようとする試みも、その活動を行うこと自体が目的になってしまうと地元住民の理解を得ることは難しいと考えています。

そうではなく、自然を守ることは、新たな仕事やレクリエーションを生み、地域にとっても価値のあることだと人々にわかってもらう必要があるのです。

ジャンゼンさんと現地スタッフ

ジャンゼンさんと現地スタッフ

周りをんだ活動は、地元住民とだけに限りません。保全地域をしたり、拡大したりするためにはたくさんのお金が必要ですが、ジャンゼンさんはこの資金を得るために企業とも協力してきました。

例えば、ある時果物を使ってジュースを製造する会社が、果物をしぼった後に生まれるパルプという大量のはいぶつの処分に困っていたことがありました。もちろん処理せつを作るという方法は考えられましたが、それではお金がかかる上に大量の燃料を使用するため、この企業がそれまでに作り上げてきた環境にやさしいというイメージをこわしてしまうおそれがあったのです。

ジャンゼンさんはこの話を聞いたとき、パルプをグアナカステ保全地域で受け入れることを思いつきました。保全地域にすむ生き物たちの中にはパルプを食べ、分解するものがいるからです。しかも、パルプを森林火災の原因となる外来植物がはんしてしまったエリアにけば、この植物をらし、他の植物が育つためのじょうを整えることもできると考えたのです。この提案は企業にも受け入れられ、パルプを保全地域で処理する対価として1,378ヘクタールもの森林をこの企業から受け取ることができました。

このようにジャンゼンさんは、それまで行われてきたような、ただ自然から人を遠ざけるような保全活動から発想を逆転し、自然自身の能力を活用することで自然にも人にも喜ばれる保全方法を実現したのです。

ジャンゼンさんたちの努力のけっしょうであるグアナカステ保全区域は、熱帯の生物多様性の保存にとって世界的に重要であることが認められ、1999年に豊かな自然を評価され世界遺産に指定されました。

3. 科学者たちの情熱

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