3. 人類文明史と持続可能な社会

『文明ほうかい

さて『じゅうびょうげんきん・鉄』を書き終わったダイアモンドさんは、「なぜ、ほろびる文明とそうでない文明があるのか」という新しい問題に興味を持ちました。イースター島の文明やマヤ文明、クメールていこくのようにかつてはんえいしたにも関わらず滅びてしまった文明があるいっぽうで、日本のように現在まで長く続いてきた文明もあるのはなぜでしょうか?
ダイアモンドさんは2005年に出版した著作である『文明崩壊』でその答えを出しました。滅びる文明とそうでない文明を決定づけた大きな原因は、かんきょうの問題だったことがわかったのです。

例えば、アンコールせきで有名なクメール帝国はかつて東南アジア最強の帝国でした。クメール帝国の中央部には東南アジア最大の湖であるトンレサップ湖があり、この湖は雨期になるとはんらんして大きく広がり、いなさくに理想的な環境を作り出してくれます。また、生態系が豊かで魚もたくさんれます。このように水にめぐまれた地域でしたが、この地域はモンスーン気候のため季節や年によって降雨量が大きく変わり、治水が難しいという問題もかかえていました。クメール帝国では貯水池を築いて水路を張りめぐらし、複雑な治水のしくみを作り上げていたものの、気候の変動によって想定以上のこうずいや干ばつにわれるようになり、そのしくみができなくなってしまいました。森林かいによってじょうが弱っていたことも、水をコントロールできなくなった一因です。これらの問題にクメール帝国の人々がうまく対応できなかったために、やがて帝国はすい退たいし、ついにはめつぼうしてしまいました。
いっぽう、日本でも時代の初期、森林破壊の問題に直面していました。この時期、人口が急激に増えたため建築用の木材や燃料用のたきぎなどが大量に必要となり、森林がらんばつされたのです。こくをしていたので木材を輸入でまかなうこともできません。

そこで、当時、日本を治めていた幕府は、森林破壊をくい止めるために様々な「おれ」を出しました。例えば、どの森にどんな木が何本あるのかを細かく記録し、いつ、だれが、何のために、何本までならってもよいかを厳しく取り決め、森林を管理しました。そのうち木々を減らさないようにするだけでなく増やすことにも力を入れるようになり、計画的な植林が行われました。雨が多くじょうが豊かで、木々が再生しやすい恵まれた環境であったことにも助けられて、森林は回復し始めたのです。
文明はその土地の環境を土台として成り立っています。環境破壊をくい止められるかどうかは、もともとの環境条件が恵まれていたかどうか、そして人々が早い段階で解決策を打てたかどうかが、運命の分かれ目となったのです。

『昨日までの世界』

ダイアモンドさんが次に興味を持ったのは「伝統的な社会から何か学べることはないか?」でした。そして書かれたのが2012年発表の『昨日までの世界』です。
ダイアモンドさんは、長年ニューギニアの現地の伝統的な社会の人々と交流し、自分の国、アメリカのような文明社会の人々の生き方とはまったくちがう生き方を目の当たりにしてきました。しかし、私たち人類の祖先はもともと伝統的な社会で生きていて、その歴史は文明社会の歴史よりはるかに長いのです。600万年にもおよぶ人類の歴史において農耕が始まったのはわずか1万1000年ほど前であり、それまでのおよそ599万年、人類はずっとしゅりょう採集生活を営みながらゆっくりと進化してきました。人類の基本的な性質は伝統的な社会の中で長い時をかけて形作られてきたものなのです。
このような「昨日までの世界」のえいきょういろく残す現代の伝統的社会には、文明社会の私たちにも参考になる例が数多くあります。人と人との結びつきが強くどくとはえんであったり、親だけでなく周りの大人がみんなで子どものめんどうを見たり、子どもの自由が認められていて早くから自立できたり、長年のや経験が大切にされていて、お年寄りにも役割があったり……といった例です。

例えばある時、ダイアモンドさんがニューギニアの村で鳥の研究に必要な荷物を運んでくれる人を探していたところ、10さいくらいの村の少年が名乗り出て、一ヵ月もついてきてくれたことがありました。少年はその時、両親に相談せず、自分でダイアモンドさんとこうしょうして仕事を引き受けました。その村では、少年は一人前と考えられていたのです。

もちろん、伝統的な社会もよいところばかりではありませんが、子育てのなやみやこうれい者の生きがいなど、私たちの社会がかかえている問題を解決するためには、異なる社会の優れているところを学ぶことが大事なのだとダイアモンドさんは考えています。

左から『昨日までの世界』『文明崩壊』『銃・病原菌・鉄』

左から『昨日までの世界』『文明ほうかい』『じゅうびょうげんきん・鉄』

4. 私たちが目指すべき未来の文明

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ジャレド・ダイアモンド教授

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