ファルケンマーク教授が最初に関わったのは氷に関する仕事です。
当時、スウェーデンでは、環境に優しいエネルギーを使おうという方針から、北部地域の川の水流などを利用した水力発電が盛んになっていましたが、ある水力発電所で問題が起きていました。その発電所からは年中、暖かい排水が近くの湖に流れ、さらにそこから川に流れ込み、それが冬期に川に張る氷を融かしていました。もともと、その地域では冬には川が完全に凍っていたので、地元の人たちが凍った川の上をソリなどで行き来して荷物を運ぶための道路代わりに使っていましたが、それができなくなってしまったのです。そのため、困ってしまった地元の人たちと発電所の間に対立が生まれ、裁判所が調停にあたっていました。
教授の仕事は、氷の専門家としてその水力発電所が近隣の川の氷に与える影響(発電所から流れてくる暖かい排水は川の氷をどれくらい融かすのか、それは地元の人たちにどれくらいの損失をもたらすのか、など)を調査し、報告書を裁判所に提出することでした。専門家といっても最初は何もわかりません。開発による「環境影響」という言葉さえ一般的ではない時代でした。そんな中、教授は、自分の頭で考え、ひたすら前進し続けることで、研究所での初めての仕事をやりとげました。