指導者のかたへ
「ブループラネット賞ものがたり」は、環境学習にも広くご利用いただきたいという思いから、ひとつの「ものがたり」に対して「学習の手引き」「参考情報」そしてこの「指導者のかたへ」という、三つの「環境学習補助コンテンツ」を用意しています。
このページでは、指導者のかたがサックス教授のものがたりを教材として利用することを想定し、指導の助けになるような情報を掲載しています。
学校での環境学習の授業や、お子さまの自主学習などに、ぜひお役立てください。
<対象:学校の先生、保護者など、教育指導にあたるかた>
ものがたりの要旨
経済学者のジェフリー・サックス教授は、ボリビアに招かれたことをきっかけに、開発途上各国の経済顧問を歴任するようになり、国ごとに具体的な経済対策法を示して経済再建・経済発展に貢献してきました。
理論やデータばかり重視し、その国の状況をよく把握しないままに解決策を提示するような経済学者も多い中で、サックス教授は各国での経験から、国や地域の固有の事情を詳細に分析したうえで適切な診断を下す、「臨床経済学」という独自の手法を確立しました。
やがて、世界の豊かな国が援助によって最初の一押しをすれば、貧しい国はかならず貧困から抜け出すことができる、という信念のもと、世界中の貧困、とりわけ「極度の貧困」を撲滅するため、力を注ぐようになります。
そして、世界保健機構(WHO)の委員会の長としてのアフリカの感染症対策、さらに、国連のミレニアム開発目標(MDGs)の達成を目指すミレニアム・プロジェクトの指揮など、国際機関において世界の諸問題の解決をリードしてきました。
近年は、地球温暖化や自然環境悪化、人口の爆発的増加など、地球規模の問題解決の重要性を提示し続けています。また、途上国のみならず先進国の中の問題にも目を向け、消費ばかりに溺れることのない「共感」に満ちた社会づくりを提唱しています。
MDGsの目標年であった2015年、世界の極度の貧困と飢餓は半分以下に減り、顕著な効果を挙げました。
2015年、MDGsの後継プログラムである持続可能な開発目標(SDGs)に各国が同意。持続可能で公平な世界の構築をめざすサックス教授の、さらなる貢献が期待されています。
指導方法の例
指導に迷われた場合は、以下を参考にしてみてください。
グループワーク
サックス教授の考え方が「貧困の内容や種類によって対策を変える必要がある」ことであるのはご理解いただいたことと思います。
この考え方をより深く理解することが、ポイントのひとつになります。
「貧困」の意味を考えよう【初級編】
まずは「貧困」という言葉が指し示す意味を理解する指導をしてみてください。
この段階では「貧困」の原因を突き詰めることは置いておき、自分の生活との比較も含め「貧困とは何か」を考えることに重点を置きます。
※本例でとりあげる「貧困」は、サックス教授が長年撲滅に取り組んできた、人間として最低限の生活も営むことができないような「絶対的貧困」を想定するものとします。ある国、地域において当たり前の生活を営むことができない「相対的貧困」については後述します。
ステップ1:
「どういうことが起きていると『その国が貧しい』と思うか」意見を出し合いましょう。
「ホームレスがたくさんいる」や「ストリートチルドレン(児童生徒はこの単語を使わず、子どもの路上生活の状態を説明すると思われます)がたくさんいる」といった、先進国でも目に付きやすいこと以外に、「学校に行けない」や「子どもが過酷な労働をさせられている」といった、社会的背景に比較的結びつきやすい意見がでてきたら、それをきっかけに次のステップに進んでください。
ステップ2:
上記で出てきた意見の中からいくつかを選んで「なぜ、そのようなことになると思うか」意見を出し合いましょう。
例えば「子どもが学校に行けない」ことの原因を考えることをテーマにした場合、「自分たちは毎日学校に来ているが、それはなぜ?」といった、自分たちの置かれた状況との違いも含めて意見を出してもらうとよいでしょう。
(例)
「学校がない」
→なぜ学校をつくり、先生を採用し、教科書を配ることができないのか?
「子どもが働かなければならないので学校に行っている時間がない」
→お父さん、お母さんが働いても、それだけで生活できないのはなぜか?
※ここでは初級段階ですので、原因を探求する必要は必ずしもなく、「国が子どもの教育に割く予算がない」とか「賃金があまりにも安いのでお父さんとお母さんの分を足しても生活できない」といった、直接的な関係性の把握でかまいません。
<指導のポイント!>
児童・生徒たちに「貧困は軽蔑の対象」といったイメージを植え付けないように十分注意してください。
なおサックス教授は、先進国で問題になっている「相対的貧困」の問題についても警鐘をならしています。基礎的なことを理解した上で、さらなる上級編として、先進国の貧困について取りあげることも検討してください。
※「貧困(絶対的貧困)」については、世界銀行で以下のように定義されています。
世界銀行では、貧困を判断する基準「国際貧困ライン」を「1日1.90ドル未満(2015年10月〜)」としています。1日1.90ドル(2015年12月現在、日本円で約230円)未満で暮らす人を、「極度の貧困」状態にあると考えます。
この「国際貧困ライン」は、ミレニアム開発目標(MDGs)の目標1「極度の貧困と飢餓の撲滅」(目標設定当時の国際貧困ラインは、1日1ドル未満)にも用いられています。
【参考】
「臨床経済学」入門〜国を診断してみよう〜【上級編】
国や地域の特徴を整理し、そこにある問題とその原因を調べることを通じて、その解決につながる方法を考えます。
ステップ1:
- グループで「診断」する国(もしくは地域)を選びます(1グループ1〜3程度)。 自分たちがよく知っている国だけ選ぶ、なんらかの先入観によって選ぶといったことをふせぐため、くじ引き方式や、目をつぶって地球儀を回して指差しするなど、なるべく無作為に選べる方法をおすすめします。
- その国がどのような国なのか、①〜③の項目で整理します。 作業期間は1週間以上としてください。サックス教授のように現地に飛ぶことは難しいので、図書館やインターネットを使って調べることが想定されます。
- ①国の基本情報(地理・気候・人口・民族・産業・文化・一人当たりGDP・貧困率・就学率など)
- ②その国の魅力(よいと思うところ)
- ③その国の問題(改善したほうがよいと思うところ)
※②、③は主観でかまいませんが、国に偏見を持つのではなく、自分なりになるべく公平な視点から国を知ろうとすることが大切なので、どちらも出すようにすすめてください。
※ 調べる前にその国に対して持っているイメージをかんたんに書きだしておき、調べた後と比較しても面白いかもしれません。
ステップ2:
ステップ1で整理した、③の問題の原因を調べます。
- ステップ1を調べる過程で、あわせて原因が示されていることが多いと考えられますので、ステップ1の過程と同時進行でもかまいません。
ステップ3:
それぞれの国の問題について、原因をふまえて、解決に向けた対策を考えます。
- ステップ2の過程を通じて出てきた貧困の原因について、解決に向けた対策をディスカッションします。一つの原因に絞ってディスカッションしてもかまいません。
- その場の思い付きの意見ばかりにならないよう、事前に情報収集する期間を設けてください。
ステップ4:
各グループの結果を発表し、「問題」の種類で分類してみます。同じような問題が複数の国で共通する場合の「原因」や「解決策」の相違点を比べてみて、「ひとつの問題にも違う原因や解決策がある」ことや「この国だけでなく世界で取り組めることがある」など、さらに話をふくらませてもよいでしょう。
(例)
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A国 | 基本情報 | 国土のほとんどが高地。 一年中暑い。 人口は約1億人。 多民族。 農業が盛ん … |
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魅力 | 美しい風景がある | |
問題 | 食べ物が十分にない | |
原因 | 土地がやせていて十分に作物が育たないらしい 特に最近は干ばつが深刻化してきている |
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解決策 | もっとよい肥料を使えないのかな? もっとじょうぶな種類の作物を植えたらどうかな? |
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B国 | 基本情報 | 海に面している。 四季があるが、平均気温は低め。 人口は約5千万人で主に○民族。 工業が盛ん … |
魅力 | 古い文化がある | |
問題 | 食べ物が十分にない | |
原因 | 一部の人が食べ物をひとりじめしているらしい | |
解決策 | ひとりじめできないようなしくみが必要なんじゃないかな? |
<指導のポイント!>
正解を導き出すことが重要なのではなく、問題が起こる原因とその対策を自ら考えることが重要です。
たとえば、貧困の原因を考えることで「世界中の国が解決に協力する必要がある」といった方向に議論が進むことが考えられますが、必ずしもこの方向にこだわる必要はありません。児童・生徒の自由な発想を尊重してください。