3. 社会がいつまでも続くために必要なこと

持続可能な経済ふく指標ISEW

持続可能な経済福祉指標ISEWとは、デイリーさんとジョン・コブ博士が共同で開発した社会経済の成長度をはかるための指標です。社会経済の成長度? 指標? 少し難しい言葉が出てきましたが、私たちの社会では自分たちの経済がどのように変化しているのかを数字として表しています。例えばみなさんのお家でも、お父さんやお母さんがどれだけお金をかせいで、家族がどれだけそれを使ったかを毎年調べれば、家族が豊かになっているのか、貧しくなっているのかを調べることができますよね。経済指標とは、国などの大きな単位でこのような計算を行って求めたものなのです。

デイリーさんたちがISEWを作り出す前にも経済指標というものは存在しました。世界中で広く使われるGDPという指標もあります。それでは、デイリーさんたちの指標はどんなところが新しかったのでしょうか。
それは、ただ単にどれだけお金が生まれて、どれだけ使われたかだけを調べるのではなく、かんきょうあたえたえいきょうなど様々なものをふくめて経済の状態を数値化したことです。人間にとってお金をたくさん持っていることだけが幸せなわけではないですよね。健康でいることや自然豊かな場所で過ごせることなど幸せには色々なことが関わっています。デイリーさんたちはそれらを含めて本当の社会経済の豊かさの度合いをはかることを目指したのです。

ハーマン・デイリーのピラミッド

また、デイリーさんは「経済成長は本当に人々の生活の質の向上につながっているのか」、という問いから生まれた、「ハーマン・デイリーのピラミッド」というものも発表しました。このような名前が付けられているのは、考え方をピラミッド型の図形で表しているからです。

ハーマン・デイリーのピラミッド

この図は経済というものの成り立ちを表しています。一番下の段は、自然資本(ここでは、将来にわたって自然からのおんけいを生み出してくれる森林やサンゴしょうなどのこと)が経済活動の土台にあるということを示しています。なぜ自然資本が土台なのかというと、すべての物は自然から取り出した物質を使って作られているし、人間の活動によって生まれるはいぶつは自然が受け取ってじょうしてくれているからです。しかし現在の経済は、自然の限界をえてどんどん大きくなろうとしています。デイリーさんはこのことを心配しているのです。

ハーマン・デイリーのピラミッド

次に一番上の段は、経済活動の目的が人の「幸せ」であることを示しています。当たり前のことに思えますが、経済学者もいっぱんの人たちもこのことを忘れて、より多くの物を生産したり、より多くのサービスを提供したりすることが目的だとかんちがいしてしまうことがあります。
「ハーマン・デイリーのピラミッド」には、限りある自然資本を損なわず幸せを生み出すのが正しい経済なのだというデイリーさんのメッセージがめられているのです。

ハーマン・デイリーのピラミッド

ハーマン・デイリーの三原則

「ハーマン・デイリーのピラミッド」とともに重要なのが、「ハーマン・デイリーの3原則」です。これは持続可能な社会に不可欠な3つの原則から成ります。

  • ①再生可能な資源を使うときには、その使用速度が再生速度をえていないこと。
  • ②再生不能な資源を使うときには、その使用速度が、再生可能なだいたいぶつに置きわる速度を超えていないこと。
  • せん物質やはいぶつを持続可能にはいしゅつするときには、自然界でそれらを吸収、再生、無害化する速度を超えていないこと。

自然があたえてくれる資源には、使っても後から再生するもの(木材、魚など)と、使ったら元にもどらないもの(石炭、石油など)があります。①が示すのは、再生する資源でも、使うスピードが再生するスピードを超えてはいけないということです。そうでないといつか資源がきてしまいますからね。②は、再生できない資源を使う場合、使うより速いペースで、その役割を再生できるものでだいたいできるようにしなければならないということを示しています。再生できない資源は使えば失われていく一方ですから、再生できるもので代用できるようにならないと、いつかその資源が必要な活動は一切できなくなってしまいます。
③は、自然のじょう能力についての原則です。自然は人間の排出物(二酸化炭素、下水など)を吸収し、無害化してくれますが、その速度より速いペースで汚染物質を排出してはいけないということです。

これら3つの原則を全て守ることで、初めて社会は持続可能となります。そして現在の社会はすでにこの原則をいつだつしているのです。

デイリーさんの夢

私たち人間は、生態系の中で他の生物にたよって生きています。一方で、これまで見てきた通り、経済は代えのきかない資源を消費し、生態系とのバランスを失いながら成長を続けています。そんな中で私たちは、正しい方向に向かっていくために自分を見つめなおす必要があります。みなさんは今よりもっと物を手に入れることができたら幸せですか。それによって自然がかいされ未来の人々が困るとしたらどうですか。自分への問いかけが日々の行動を変えていきます。
人の気持ちは簡単には変わりません。しかし人々が「世界は変わったのだ」という現実を受け止めれば、そくには無理でも時間をかけて人の考えをゆっくりと変えることは可能だとデイリーさんは考えています。
デイリーさんの夢は、地球上のだれもが持続可能な社会を作るために努力し、幸せな生活を送れるようになることです。

menu

ハーマン・デイリー教授

English