学習の手引き
シュクデフさんのものがたりはいかがでしたか?
ここは、みなさんがものがたりについて復習したり、理解を深めたりするためのページです。ここだけに書いてあることもありますよ!
<対象:小学校高学年以上>
まずはクイズです!
問1:私たちの社会における豊かさとして、次のうち、どれがより適切でしょうか。
問2:自然の価値はどのように考えることが適切でしょうか。
こたえ
問1:私たちの社会における豊かさとして、次のうち、どれがより適切でしょうか。
こたえ:2. お金や物を持つことだけでなく、自然を残すことも両立させることが豊かさである。
正解を2としましたが、その理由を説明する前にお話ししておくことがあります。
1が正解と思う人の考えも、3が正解と思う人の考えも、絶対に間違いというわけではありません。「他の犠牲を払ってでもお金持ちになることが重要」と思う人も、「自然に囲まれていればそれだけで幸せ」と思う人もいることでしょう。まず皆さんに理解しておいてほしいことは、環境問題には人の価値観がつきもので、それは国、宗教、文化、また時代によっても異なるものです。ですから、自分の考えを押し付けることでは解決しない、他の考え方も慮ることが必要な環境問題もあることを頭に入れておきましょう。
では、この問題について考えていきましょう。
いわゆる先進国という、既に経済的に発展した国では、発展の過程で多くの自然を壊してしまったことを反省し、後から自然を守ることに苦労しています。
途上国では、早く経済的な充実を得たいがために、自然を壊すことを厭わず、産業を発展させようとする場合があります。その結果、後になって、かつて同じ道を通った先進国のように後悔することになります。
一方で、自然を残すためにその国の経済のことを疎かにすると、貧しい人たちはいつまでたっても貧しいままだったりします。つまり、経済発展と自然保護のバランスを保つことが重要ですね。
この問題は「どれがより適切でしょうか。」と問うています。これまでの世界の歴史を振り返ってみると、より多くの人が幸せになれるのは、2番であることがわかりますね。
問2:自然の価値はどのように考えることが適切でしょうか。
こたえ:2. 自然の価値は値段であらわすことができ、それによって価値を認識しやすくなる。
人間の経済活動が生み出す価値を計算する方法は、これまでに多くの経済学の専門家によって行われてきました。ある国で1年間に国内で産み出された価値はGDPで示されます。また業績の良い企業の価値は株価に反映されます。
ある国で産業を発展させるために、あるいはある企業が業績をあげるために、自然をどんどん破壊すると、どのようなことが起こるでしょうか。例えば森林を破壊すると、水源地の保水機能が失われて水不足になり、最悪の場合は人間が生活できなくなったりします。水を確保するために、莫大なお金をかけてダムや浄水場などのインフラを建設する必要が出てくるでしょう。さらに、毎年こうしたインフラの維持にもお金がかかってきます。自然をないがしろにする経済活動は、長い目で見ると損するのです。
経済活動が生み出す価値を計算する方法はあります。では、自然の価値を計算する方法はあるでしょうか。以前はほとんどなかったのですが、環境経済学では、自然の価値を計算するさまざまな方法が発展してきています。
2016年にブループラネット賞を受賞したパバン・シュクデフさんは、これらの計算方法を使って自然の価値を認識する仕組みを多くの国で取り入れてもらえるように尽力してきました。
ここはおさえておこう
シュクデフさんは、銀行家としての経験などを通じて、経済の専門家の視点から自然保護について考えてきました。
これまでの経済指標では、例えばGDPが伸びているからその国は経済成長していると考えがちですが、その過程でGDPに反映されない自然資本を失い続けた場合、いずれ人間の経済活動を脅かすことになり、長期的にみると経済損失になっていることに着目しています。
その国の経済状況を表す指標には、これまでのGDPなどでは盛り込まれない自然資本や人的資本(知識、訓練など)を盛り込む「環境会計」が重要である。
企業でも、自然資本への依存度や影響を測定し評価する方法が必要である。
国や企業は、生態系の保全や生態系サービスの利用にかかるコストや便益を、意思決定に組み込むことが、長期的な利益につながる。
もっとくわしく
これまで、私たちは自然を「タダ」同然のように思い、場合によっては無節操に自然を破壊することもありました。しかし、自然の恩恵(生態系サービス)に気づき、それを経済的に評価することで、生態系サービスの価値を捉え、持続可能な利用ができることを知りました。
ところで、この「自然を経済的に評価する」とは、いったいどのように行うのでしょうか。ここでは、その概要をお話します。
まず、その前に、前提となることを復習します。
- 自然は、複雑で未知の部分も多く、その全てを経済的に評価することは困難です。
- TEEBでは、自然のなかでも「生態系サービス」に着目し、さらにその中でも「経済的に価値を評価する」ことが可能な範囲に限定しています。
- また、経済的に評価する手法は、常に開発・改良が続けられており、完成したものではありません。
これらの点を踏まえ、現在用いられている、主な経済的評価手法は以下の通りです。
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分類 | 評価手法名 | 概要 | 評価に使用する情報例 |
---|---|---|---|
市場での取引価格を基にする (市場評価) |
市場評価法 | 実際に市場で取引される価格を用いる。 | 農作物の市場価格。 |
代替法 | 自然が持っている機能を人間が人工的に代替した場合の費用を計算する。 | 河川の浄水機能を浄水場で代替した場合の費用。 | |
回避費用法 | 自然が持っている災害回避や環境回復の機能を人間が行った場合の費用を計算する。 | 森林が持っている洪水防止機能の代わりに、人間が土木工事で防止する場合の費用。 | |
消費者の好みにより支出される金額を基にする (顕示選好) |
トラベルコスト法 | 絶景などの観光地までの旅行費用。 | 絶景地の観光価値。 |
ヘドニック価格法 | 良好な自然の存在による不動産価格の相違を計算する。 | 良好な自然の隣接地とそうでない地の不動産価格。 | |
消費者が支払ってもよいと考える金額を基にする (表明選好) |
仮想市場評価法 | その自然のサービスを享受するために「自分ならいくら払ってもよいか」をアンケート調査する。 | 生態系サービス全般、特に市場の情報のないサービスに適用可能。 |
TEEBの報告書では、これらの手法を使って実際に生態系サービスの経済的価値を評価した事例も紹介されています。ここではその中から、二つ紹介します。
- 世界の「サンゴ礁」は世界の大陸棚の1.2%を占めるにすぎませんが、海水魚の4分の1以上に当たる100万から300万もの種が生息し、沿岸地域や島に住む人々に食料や収入をもたらしてくれます。このサンゴ礁の恵みの価値は、年間およそ300億ドル〜1,720億ドルに達するとされています。
- アメリカ・ニューヨーク市は、市民の90%が水源として利用するキャッツキル川・デラウェア川流域の水質改善のため、上流域で農林業を営む人に対して対価を支払い、河川に流れ込む汚水を軽減するための措置をとってもらうことで、高価な浄水場の新たな建設を回避することができました。
結果、対価として10〜15億ドルの費用がかかり、恩恵を受けるニューヨーク市民の水道料金は9%増額されました。しかし、もし新たに浄水場を建設していれば、60〜80億ドルの建設費に加え、毎年3〜5億ドルの維持費がかかり、水道税は2倍以上になったとされています。
さらに知りたいかたへ(参考情報):
・TEEB:生態系と生物多様性の経済学(The Economics of Ecosystems and Biodiversity)
・TEEB統合報告書