2. 研究とじっせん

輸送研究所

スパーリングさんは1991年にカリフォルニア大学デービス校で「輸送研究所」を設立しました。この研究所は輸送手段や燃料に関する技術、輸送と環境との関係、さらにはルール作りなどももうした都市輸送専門の研究機関です。輸送研究所のもっともユニークな点は、産業、政府、かんきょう団体のはしわたしに成功したことです。

研究のための資金を調達する際に、石油・自動車産業や運輸省・環境保護庁・エネルギー省などの政府機関、財団などから資金提供をつのったところ、これらすべての組織が積極的に資金を提供してくれました。また、アメリカ以外の国々の政府やぎょうとも協力体制を築きました。スパーリングさんが、輸送、環境、そしてエネルギーの関係に注目し始めた1980年代には、このような研究は非常にめずらしく、研究する人がほとんどいない分野でしたが、世界がこのプロジェクトの重要性をじょじょに認識するようになっていったのです。実際の社会における都市輸送を変革するためには、研究したり論文を書いたりするだけでなく、技術を生み出す「産業」、技術を使うためのルールを作る「政府」、そして環境を守る「環境団体」と協力しながら進めることが不可欠です。

こうして、協力体制を実現できた輸送研究所はその後、世界の手本となるような研究を行っていくことになりました。

輸送研究所での光景

だいたい燃料の研究

スパーリングさんが行った研究の一つに代替燃料の研究があります。代替燃料とは石油の代わりとして車などの輸送手段に用いる燃料のことです。例えば、電気、水素、バイオマス燃料や天然ガスなどがふくまれます。代替燃料には温室効果ガスや大気せん物質をはいしゅつしないものもあり、その使用はかんきょう汚染を防ぐことにつながります。

代替燃料という新しいエネルギー源を研究しても、企業がそれを使った製品を作り、消費者がその製品を使わなければ意味がありません。

そこで、スパーリングさんたちは、市民ドライバーの協力を得て、代替燃料を使った車が人々にどんな印象をあたえるのかを調査しました。その結果、値段さえ適切であれば、静かで空気を汚染せず、乗り心地の良い電気自動車は人気が高いということがわかりました。さらに、調査結果をカリフォルニア州に提出し、ルールづくりにも協力しました。これにより制定された「排ガスゼロ規制」によって、自動車メーカーははんばいする車の一部について大気汚染物質を排出しないものにすることが義務付けられ、代替燃料の使用がそくしんされました。

また、スパーリングさんは代替燃料に関して多数の著書を出版しています。最初に出版した「New Transportation Fuels」という本は、車、燃料、土地利用といった輸送に関する世界的な課題を解決するために、それまで別々に考えられていた学術研究の分野と政策の分野を組み合わせた画期的なもので、社会に大きなえいきょうを与えました。

2009年に出版した「Two Billion Cars: Driving Toward Sustainability」では、石油にぞんし続けるアメリカの輸送が環境に与える影響を検証し、代替燃料、車、消費者行動、政策など、多角的な観点から持続可能な未来への道筋を示しました。

低炭素燃料基準

2007年、スパーリングさんはカリフォルニア州知事のらいを受け、州の大気せんと気候政策を担当する大気資源局の役員に就任しました。カリフォルニア州は、スパーリングさんが策定に協力した排ガスゼロ規制など世界にさきけた政策をじっしており、役員会の決議は全米をはじめ、日本や世界に影響を与えるほどの大きな力を持っていました。一方で、まだだれも手がけたことのない分野であるため、難しい課題も抱えていました。

スパーリングさんの仕事は、エネルギーや気候変動について、車、燃料、消費者の観点から対策を考えることでした。その中でも最も重要な仕事は、低炭素燃料基準というルールをつくることでした。低炭素燃料基準とは、輸送用の燃料が、「作られ」、「運ばれ」、「使われる」際にはいしゅつされる温室効果ガスの量が一定の基準以下とするように義務付けるルールです。生産や輸送の過程でも燃料を使うと温室効果ガスが排出されるので、燃料に関わるすべての過程で排出をよくせいしようとしたのです。

また、低炭素燃料基準は、産業界の人たちが協力したいと思えるしくみも備えています。温室効果ガスの排出量が基準より少なかった事業者は、基準をえて排出してしまった事業者からお金を受け取ることができるのです。このようなルールがあれば、温室効果ガスの排出を減らそうと思えますよね。

スパーリングさんたちは、低炭素燃料基準を作るために多くの人たちと話し合いを重ねました。例えば、政府の関係者、石油・車・電気産業の人々、環境団体のメンバーなど、皆異なる目的を持っている人たちです。目的がちがえば意見は簡単にはまとまりません。それでもスパーリングさんたちは長い時間をかけて全員の話をよく聞き、科学に基づいた公平なルールを作り上げました。このルールは石油産業を変革するほど革新的なものでした。

3. 知識とコミュニケーション

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ダニエル・スパーリング教授

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