3. 世界の森林と土地を守るために

衛星画像を通して人と土地を結びつける

1995年、ランバンさんは母校ルーヴァン・カトリック大学の教授になりました。ここでランバンさんは、ブルキナファソでやっていた衛星画像を通して人と土地を結びつける研究をもっと深めてみることにしました。人と土地との関わり合いのプロセスを明らかにすることで、かんきょう問題の解決につなげようと考えたのです。

例えば、ヒマラヤの国、ブータンの衛星画像を見てください。緑色のところは森林、ピンクの部分は森林が燃やされ、かいされたところです。

この衛星画像に写っているのはいわば人間活動のあとそのものです。衛星画像を拡大していけば、農家があったり木材会社があったりすることがわかるでしょう。もちろんそこでは人が暮らしています。

ブータンの衛星画像

ブータンの衛星画像

ランバンさんたちは、その人たちにインタビューをしに行きます。そして、この場所にいる人はこういう考え方、別の場所にいる人は別の考え方…というように、衛星画像にピンを打つように書きんでいきます。それらのデータが集まってくると、緑の部分にいる人たちとピンクの部分にいる人たちの考え方のけいこうはどうちがうのか、人がどういうことをした結果、森林が破壊されてしまったのか……といったことがわかってきます。
それぞれの場所にいる人たちの考え方を知るためには、やはり自分でそこまで行って、直接インタビューするしかありません。そのような地道な作業を重ねることで、その土地に何が起きているのかがしょうさいにわかるようになるのです。

そのうちにランバンさんは「世界中で同じような研究をしている人たちのを集めれば、もっといろいろなことがわかるんじゃないか。」と思うようになりました。
そこで1999年、ランバンさんは、人間による土地利用の変化やそのえいきょうについて研究をしている世界中の研究者たちのネットワーク「土地利用および土地ふく変化研究計画(LUCC)」を立ち上げました。ランバンさんは研究者たちの中心人物として、7年間にわたって委員長を務めました。

研究者たちはふだん、さまざまな国でさまざまな研究をしています。例えば、森林破壊の研究をインドネシアでしている人もいれば、ブラジルやグアテマラでしている人もいます。違う場所ですから、森林破壊の原因もそれぞれ違うかもしれませんが、中には共通点もあるかもしれません。それらを比べてみることで、地球規模で土地利用の研究を深められるようになったのです。

ブータン 2011

ブータン 2011

カメルーン 2015

カメルーン 2015

自分の国の森林保護は他の国の森林かい?

こうしていろいろな国の森林破壊について調べるうちに、ランバンさんたちは思わぬことに気づきました。
ランバンさんたちが調べていたアジアや中南米の開発じょう国の中に、ある時期までは森林がどんどん減っていたけれど、まただんだん増え始めた国がいくつかありました。よいことに思えますね。
ランバンさんたちは森林が増えた原因を探るために、輸出入の動向など、各国の経済じょうきょうのデータを調べてみました。するとその中に、森林が増え始めたのと同じタイミングで、他の国からの木材の輸入が増えている国があるとわかりました。つまり、必要な木材をまかなうために、自分の国の木材の代わりに他の国の木材をてていたのです。

現地に行ってさらに調べてみると、そういった輸入木材の中にはほうばっさいされたものもあるとわかりました。違法伐採とは、決められた量を守らない伐採、伐採してはいけない種類の木の伐採、伐採してはいけない森林でのとうばつなどで、森林破壊に直結します。
例えば、自分の国で人々が木材を取りすぎて森林を減少させていたとします。森林減少を食い止めるには、国内で木材を取っていい量を決めて、それ以上取ったらばっすることが役立つかも知れません。しかしそうなると国内に木材が不足するので木材の値段が高くなります。そうすると他の国から値段の安い木材を買ってこようと考える人が出てきます。その結果、他の国では今よりも違法伐採が増えて、森林が失われるかも知れません。このようにして、自分の国の森林保護を進めるいっぽうで、結果的に他の国の森林破壊が進んでいたのです。

ランバンさんはこれをきっかけとして、一つの国の中で森林保護を進めているだけではだめで、木材を輸入している国、輸出している国、両方の森林保護に目を向けなくてはいけないのだと思うようになりました。目の前の土地やかんきょうだけを考えていては、地球全体をもっと悪いほうに追いやってしまう危険があるのです。この問題を解決するには、木を切る人も木材を売る人も、木材を買う人も、木材から作られる製品を買う人も、みんながルールを守った方が得になる(逆にルールを守らなければみんなに認められず、木材の売買に加われなくなって損になる)ような関係をつくる必要があります。
今日の世界はつながっており、輸入や輸出をしないわけにはいきません。ならば、そのつながりのありようを改善していけばよいのではないか、とランバンさんは考えました。自分の国の森林と同じように他の国の森林にもはいりょすることが当たり前になれば、地球規模での森林保護につながり、持続可能な土地利用がすすめられるのではないか、と考えたのです。

環境保護の規模を拡大

ランバンさん

それ以来ランバンさんは、社会の中で環境保護の規模を拡大していくことに力を注ぎ続けています。
例えばみなさんの持っているノートの一生を想像してみてください。まず、どこかの国の森林で木が伐採されます。木を原料として工場では紙を作り、紙は別の工場でノートに仕立てられます。ノートは船でみなさんの国に運ばれ、さらにトラックでみなさんの街のお店に運ばれます。そしてお店で買われてみなさんの手元にやってきます。

このように、ノートや農産物などの製品は、多くの場合、原材料の調達、製造、輸送、はんばい、消費といった流通の過程において、国をまたいで旅をしてきています。

ノートの一生

ランバンさんは、やるべきことはもうわかっているといいます。それは、先ほど説明した流通の全ての過程において、環境にやさしい持続可能なやり方をとることです。違法伐採などで森林を破壊したり、工場のはいすいで海や川をせんしたりしてはいけませんし、輸送の際に船やトラックのはいガスとして二酸化炭素を大量にはいしゅつしたりするのも問題です。そして国をまたいでの旅ですから、一つの国だけでなく、関係する全ての国において実現されなければなりません。

実行にあたってカギとなるのはだれでしょう。もちろん環境保護や貿易に関する政策を決める各国の政府も大切ですが、ランバンさんは、製品を実際に作って売り買いする民間ぎょうの役割がとても重要だと思っています。とりわけ国際的にかつやくする大企業は、製品の流通過程の全てに大きなえいきょうおよぼします。
実現のための効果的な方法として、エコ認証制度というものがあります。これは、ある製品について、原材料の調達、製造、輸送など、いずれの過程においても環境にやさしい持続可能なやり方がとられていると、証明するシステムです。認証を受けた製品にはエコラベルが付けられ、消費者はエコラベルが付けられた製品を選ぶことで環境保護にこうけんできます。

全ての企業が参加するようになれば効果はてきめんです。大企業もふくめ参入する企業はどんどん増えていますが、参入割合はまだまだ業界の2%から20%といったところです。ランバンさんは、本当に環境破壊をくい止めて持続可能な世界を実現するためには、それを80%まで拡大する必要があると考えています。どうすれば拡大できるのかを考えるのが、ランバンさんのライフワークです。
必要なステップは3つだとランバンさんは言います。まず、政府が政策を改革すること。次に、企業、特に大企業が改革を受け入れること。最後に、社会がそのようなやり方を当たり前にすること。よいやり方をしている企業は社会に受け入れられて生き残り、そうでない企業は生き残れないようになれば、世界は大きく変わっていくでしょう。

4. 自然と幸福

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エリック・ランバン教授

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