かんしゅうのことば

-2017年(第26回)ブループラネット賞受賞者にせて-

2017年(第26回)ブループラネット賞は、ポツダム気候変動インパクト研究所所長のシェルンフーバー教授と、スタンフォード大学のデイリー教授が受賞されました。

今回の2件は、気候変動とせいぶつけが対象で、かなり異なった研究領域での業績のようにも見えますが、実は、いずれの業績も、人類の生存と地球の保全という観点から、もっともおくゆきが深く、かつ、もっとも重要な二つの問題である気候変動および生物多様性に関するもので、この重要な問題をできるだけ定量的にかいせきして、将来、どのようなじょうきょうになるのかを知ることで解決につなげよう、という学術的な活動が受賞の対象になった、とかいしゃくすることができます。と言いますのも、スウェーデンにストックホルム・レジリエンス・センターと呼ばれる組織がありますが、そこでは、地球のわくせい限界(プラネタリー・バウンダリー)というデータを発表しています。それによれば、すでに惑星としての持続性をしたじんてきかんきょう負荷として、気候変動、生物圏の完全性の変化、そして、これはまだ余り認知度が高くはないのですが、土地システムの変化、ちっとリンのじゅんかん、この4点が上げられています。

気候変動については、パリ協定によって、2030年目標だけでなく、今世紀末までにNet Zero Emission(=NZE)、すなわち、温室効果ガスはいしゅつ量の差し引きゼロを目指すことが合意されました。「差し引き」とは、植林などのこうによって吸収量が増加した分は排出しても良い、ということですが、吸収量のおおはばな増加はほぼ不可能な作業であり、NZEが実現できるかどうか、いささかとうめいです。しかし、世界的な合意ができたということは、非常に大きな進展であったように思われます。残念ながら、日本国内では、パリ協定の基本コンセプトが、日本人にとって非常に分かりにくい「気候正義」というがいねんによって成り立っているためもあって、認知度はぜんとしてほとんどゼロです。


シェルンフーバー教授は、パリ協定の科学的こんきょを作り上げた最大のこうけん者であると言えます。ティッピングエレメントという、一度起きてしまったら、あともどりできない気候変動における重大な現象、例えば、グリーンランドのひょうしょうゆうかいなどの不可逆性をてきした、気候変動に関するトップの研究者です。気温のじょうしょうを2℃以下に保たなければならない、というパリ協定の理論的な根拠を示すという大きな貢献をした研究者だとも言えると思います。シェルンフーバー教授の研究チームは、現在、大気中の二酸化炭素の半減期のせいという大変困難な研究を進めていて、この研究も、非常に重要な意味を持っています。受賞講演によれば、一度排出した二酸化炭素は、どうやら数万年にわたって大気中に存在して温暖化を進めるというやっかいな環境かい物質のようです。


もう一人の受賞者、デイリー教授は、惑星限界を超した人間活動が行われている生物多様性分野の極めて重要な研究者です。もともと生態系の研究者ですが、無条件に自然保護をすれば良いという主張をする単純な保護派の研究者ではなく、人の手の入ったところにも相当量の自然が残っていること、さらに、自然には経済的な価値があることを定量的に示すことによって、経済社会のわくぐみみの中で、自然を保護しつつ、その経済的な価値も高めるという方法があることを示しました。特に、「カントリーサイド生物地理学」という全く新しいコンセプトを提案したことは、非常に重要なことだと思います。人口が増大し続けている地球で、人間活動をおおはばに制限することで自然保護をすいこうすることは、非常に困難です。なぜならば、人類は生態系を利用して初めて生存できるからです。

となると、自然保護と人間活動の両面を満足しつつ、経済的な利益をより長期的に持続するような新しい考え方が必要なのではないか。当然、短期的かつ急速な経済的利益は得られないかもしれないけれど、長期的にはメリットのある解決法があるのではないか。このような考え方に基いて、デイリー教授は、人間活動と自然との調和しつつ、経済的な成長も実現しうる新しいあり方を提案し、環境問題への考え方を決定的に変えました。個人的には、これが最大の貢献であったと考えています。


2015年のパリ協定以来、世界はだいてんかん時代に入りました。それは人間活動と地球との関係をもう一度根底から見直すことが必要な時代になったという世界的な認識に基づいています。しかし、日本国内では、「エコつかれ」といった感覚が、ぎょうなどにはまだまだまんえんしています。今回のブループラネット賞の二名の受賞者は、環境に対する全く新しい考え方を提案し、世界の動向をリードしています。しかも、先進的グローバル企業の経営の方向性を変えてしまいました。お二人とも、2015年が時代の大きなてんかん点であったことをしょうちょうしている受賞者である、と思います。


やす いたる Itaru Yasui
国際連合大学元副学長
東京大学めい教授


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