監修のことば
-2021年(第30回)ブループラネット賞受賞者に寄せて-
2021年のブループラネット賞は、次の2名の方が受賞されました。
ヴィーラバドラン・ラマナサン教授(米国)とモハン・ムナシンゲ教授(スリランカ)の2名です。
受賞者の業績を個人的にどのように理解したか、記述したいと思います。
ラマナサン教授は、二酸化炭素以外にも、地球温暖化を引き起こす気体があることを発見されました。常に、広い視野で物を見る研究者が、重要な発見をすることを証明されたのではないか、と思われます。
ムナシンゲ教授は、スリランカの研究者だけのことはあって、サステノミクスなる概念を提案することによって、世界の富裕国の人々の「消費をすることが地球環境を破壊することに対する意識の低さ」を指摘したと言えるのではないか、と思います。
続いて、個人としての全体的な感想です。このお二人の業績を読んだときに、最初に感じたことは、研究テーマの選択が非常にバランスが良いということでした。
具体的に言えば、ラマナサン教授は、実用材料とそれに付随する物質の気候への影響を長年に渡って追い続けたことが、成功の理由として挙げられると思います。具体的には、クロロフルオロカーボンの非常に大きな温室効果とブラックカーボンの気候への影響を発見されたことが、その具体例だと思います。全く新しい物質を開発し、気候への影響を見出すというアプローチに比較すれば、すでに実用化されている物質の特性を新たな視点からより深く解明することの重要性は、影響の大きさという観点からみて重大であることは当然だからです。しかし、多くの研究者にとっては、陳腐な研究に見えるために空白地帯になってしまうエリアなのだと思います。
ムナシンゲ教授の業績は、どちらかと言えば、哲学的な検討を行った成果であったと評価できると思われます。人類にとって、なんらかの「開発」を行うことは、より良い生活を行うために必須な要素だと思いますが、無制限に「開発」を行えば、必然的結果として、環境に負の影響を与えることになるのは、一般論としてすでに指摘されていることです。そのバランスをどのような指標を用いて、解析すれば良いのか。この問いに対して、汎用となる基礎哲学を構築されたのが、ムナシンゲ教授だと言えると思います。具体的には、バランスの良い開発を行うには、経済、環境、社会の三つの観点からとらえるサステノミクスなる方法論を用いれば、より良い成果、具体的には、公正ですべての人々が享受できるグリーン成長が実現できることをムナシンゲ教授は導きました。
現在社会では、ややもすれば、短期での経済成長のみを達成目標として、技術開発などの経済活動をしがちですが、それでは、人類が地球環境を破壊してしまい、未来世代のベネフィットを奪うことになります。未来世代を常に考えた社会を構築することは、現時点における最大の原理原則の一つだと思いますが、どのような具体的な枠組みを社会に導入すればよいのか。これは、重大な問題、いや、重大な難題だと言えると思います。今回のお二人の受賞者は、その基本的な指針を我々に与えてくれたように思います。
安井 至 Itaru Yasui
国際連合大学元副学長
東京大学名誉教授