2. 宇宙からの目、地上からの目

衛星画像とフィールドワーク

1985年ごろ、ランバンさんは大学の博士課程に進むにあたり、あるプロジェクトに参加することになりました。リモート・センシングという人工衛星から地球の表面を観測する技術を使って、そこに住む人たちがどのように土地を利用しているか、また土地の利用方法が時間の経過とともにどのように変化しているかをぶんせきする調査です。地球の周りを回っている地球観測用の人工衛星は、センサーを用いて宇宙から地上を観測し、定期的に画像データを送ってくれます。衛星画像は単なる写真ではなく、そのデータからは植物の分布じょうきょう、地表面や海面の温度、地表の高低差、雲の様子など、さまざまなことがわかります。雲の衛星画像はテレビの天気予報でおなじみですよね。

当時、衛星画像を使った土地利用の調査は最せんたんの試みでした。それまでも飛行機からった航空写真はありましたが、非常に高価なうえに10〜15年ごとの写真しかありませんでした。しかし衛星画像なら、2週間ごとに新しい写真が手に入るうえに、地上の植物や土の状態がかなりの精度でわかり、しかもデータをコンピューターで分析することもできます。

ランバンさんは、アフリカのサヘル地域の国、ブルキナファソの土地を調査することにしました。当時、サヘル地域のばく化が問題になっていたからです。砂漠化の原因は人間の土地の利用方法にあると考えられていたので、ランバンさんはそれが本当か確かめることにしました。ブルキナファソを選んだのは、この国ではある土地の民族は主に放牧、別の土地の民族は主に農耕というように、それぞれの民族がそれぞれの住む土地を異なる形で利用していて、その様子が衛星画像にも写っていたからです。

ランバンさんはさっそくブルキナファソの衛星画像を集めました。しかし、それをながめていただけではありません。次にはフィールドワークのため、自らブルキナファソに足を運びました。オートバイを買ってテントを積みみ、2〜3か月間ひたすら村から村へ旅をして、そこに住む人々にインタビューをして暮らしかたを調べて回ったのです。
衛星画像があるのになぜわざわざ現地で暮らし方を調べたのでしょう。それは、衛星画像ではわからないことがあったからです。衛星画像はその土地の植生や土、岩、川の様子をこうはんわたって高い精度で写してくれますが、そこでわかるのは人々が暮らした結果としてできあがった土地の姿でしかありません。衛星画像でとらえられる土地の姿をつくりだした人々の暮らしは、実際に会って話を聞いてみなければわかりません。特に、当時は衛星画像を使った調査はまだ新しい技術だったので、実際に自分の目で確かめることが重要でした。
インタビューをしに行くときには、自分の位置を知ることができるGPS(全地球測位システム)を持っています。すると、どこでインタビューをしたのか後で確認できます。それを衛星画像と重ね合わせれば、「この場所にはこういう人たちがこのように暮らしている」とわかり、人と土地の関わりがより深く見えてくるようになるわけです。

どこの村の人もランバンさんにとても親切にしてくれました。お土産には生きたにわとりをくれるので、ランバンさんは鶏をバイクにぶら下げて次の村に行き、毎晩もらった鶏を食べて、元気にフィールドワークをしていました。しかし、しばらくしてブルキナファソで軍事クーデターが起こって国が混乱し、ランバンさんはスパイの疑いをかけられてつかまり、とうとうベルギーに送りかえされてしまいました。

ブルキナファソでのフィールドワーク

ブルキナファソでのフィールドワーク

フィールドワークはこうして終わりをむかえましたが、成果はありました。砂漠が拡大している確かなしょうを見つけることはできなかったものの、人間による農業や取水、放牧のしすぎなどによって土地が弱っていることがわかったのです。

かんきょう問題の解決

宇宙からのデータと地上からのデータを結びつけるアイディアは、その後のランバンさんの研究につながりました。
1987年、ルーヴァン・カトリック大学の博士課程しゅうりょうひかえたランバンさんは、国際学会でリモート・センシングの専門家であるボストン大学のアラン・ストラーラー教授と出会いました。ランバンさんが宇宙からのデータと地上からのデータを組み合わせるアイディアを話してみたところ、ストラーラー教授は、博士課程が終わったら自分の大学に来るよう、さそってくれたのです。
こうしてランバンさんはボストン大学のじゅんきょうじゅとなり、多くの仲間や指導者にめぐまれ、リモート・センシングの研究にぼっとうしました。ここでは、衛星画像からわかる地上の景観の変化と、その地域の植生や土地表面の湿しつの変化を結びつける研究を行っていました。ストラーラー教授は当時、米国航空宇宙局(NASA)との共同プロジェクトで人工衛星「テラ」と「アクア」にとうさいする観測機器の開発を指揮しており、ランバンさんもその開発で重要な役割を果たしました。

1993年にはイタリアのリモート・センシング・アプリケーション研究所に移り、さらに研究を続けました。

1993

このころから、ランバンさんの興味は少しずつ変わり始めていました。もともとランバンさんが土地の研究を続けてきたのは、世界中を旅行できるし、リモート・センシングという最せんたんの技術が面白かったからでした。しかし研究を続けるうちに、地球環境に非常に急速な変化が起こっていると気づきました。
農耕やぼくちくなど、人間の土地利用は環境の変化に大きなえいきょうあたえます。例えばその土地の森林がかいされれば、生物多様性や水環境にも影響をおよぼします。さらに大気中への二酸化炭素はいしゅつ量が増えることで気候にまで影響を及ぼします。そしてしょくりょう生産へのげきえきびょうの増加など、人間の生活もおびやかされることになります。
「私たちは環境問題を解決する方法を探るべきだ。」ランバンさんは、そのためにどのように自分の研究を生かせるか、考え始めました。

3. 世界の森林と土地を守るために

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エリック・ランバン教授

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