3. 水不足が一目でわかる「ファルケンマーク指標」

じょう国の水問題と先進国の誤解

ユネスコ国際水文学10年計画での活動を通して、ファルケンマーク教授は途上国から届けられたたくさんの報告書を読みました。その結果、教授は途上国、とりわけアフリカにおける貧困の深刻さを知るとともに、その原因に水資源のけつぼうが大きく関係していることに気づいたのです。
当時(1970年代)、先進国は途上国発展のためのえんを行っていたものの、途上国の貧困の理由に水問題が関係しているとは思っていませんでした。当時、先進国にとっての水問題といえば、もっぱら工業化がもたらす水せんの問題だったので、水不足や水欠乏といった問題の発生には思いがおよびませんでした。先進国は、水問題は地域によってちがうのだと気づいていなかったのです。

1970年代の初めは、国際的なかんきょう問題に対する関心の高まりから国連でさまざまな会議がかいさいされていましたが、ある会議の中で、世界は最大で400億人もの人を養えるという、大変楽観的な報告をした研究者たちがいました。

会議に参加していたファルケンマーク教授は、この報告を聞いて疑問に思いました。教授は、その研究者たちが人間が生きるのに必要な水について考えていないと感じたのです。400億人もの人が分け合えるだけの水が果たしてこの世界にあるでしょうか。
これをきっかけとして、教授は人間にとって水がいかに重要かを世界に知らせたいと思うようになったのです。

国連会議にて(1980年代 左から2番目が教授)

国連会議にて(1980年代 左から2番目が教授)

人口増加と水資源

1970年代から80年代は、急激に人口が増加し、地球全体の水資源に対して一人当たりの使える水は減っていました。そしてアフリカではひどい干ばつが発生し、深刻な水不足によりが悪化して、多くの死者が出ていました。
教授は、世界で人間が使える全ての水の量と、一人あたりに必要な水の量を考えれば、水を供給できる人口には限界があるということを示す必要があると考えました。そして、世界の水不足のじょうきょうが一目でわかるような「水不足を示す指標」を作ることにしたのです。

それは、このような指標でした。
あるところに一定量の水があったとします。その水をそこにいる人たちで平等に分け合うことにしましょう。そこにいる人たちの人数が多くなればなるほど、一人分の水の量は少なくなり、しまいには生きていくために最低限必要な量さえ行きわたらなくなってしまいます。これが水不足です。
教授は、どれくらいの量の水を何人くらいの人間で分け合うと水不足になるのか調べるために、世界のさまざまな報告書を調べました。その結果、1年間に100万立法メートルの水が供給される場所があるとすると、そこに1,000人以上の人間がいることで深刻な水不足の問題が発生するとわかりました。

教授はこうした調査を基に、以下のようなことを明らかにしました。

100万立法メートルの水資源を共有する人口が、

  • 600人未満…問題なし
  • 600人〜1,000人未満…水ストレス(水のけつぼう)が発生
  • 1,000人以上…まんせいてきな水ストレス状態になる
  • 2,000人以上…絶対的な水ストレス状態になる

これが、後に「ファルケンマーク指標」と呼ばれるようになった考え方です。現在も、世界の水不足の度合いを示す指標として広く利用されています。
「このがいねんのポイントは人がしょうてんになっていることです。」とファルケンマーク教授は言います。人口は増加し続けているので、水不足のじょうきょうを知るためには水資源の量だけを考えるのではなく、人を基準に考えることが重要なのです。

ファルケンマーク指標の図解

ファルケンマーク指標の図解

4. 見えざる水「グリーンウォーター」

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マリン・ファルケンマーク教授

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